【GL】勇者パーティに裏切られた私、悪魔の力を借りて復讐するはずが、復讐相手が溺愛してきます

@fujinobu

第1話 プロローグ 

 『勇者パーティが魔王を倒した』


その報せが世界中を駆け回り、人々は狂喜乱舞する。

 数十年に渡る魔王の恐怖から、解放されたのだ。

 私も、溢れでる笑顔を止めることができなかった。


 ーーしかし、私、ヴェンデッタの笑顔の理由は違っていた。

 ついに、復讐をするべき時がきたことへの歓喜の笑みだった。


 「ふふふ……、ようやく魔王を倒したのね」


 何が勇者パーティよ、笑わせるわ。

 私を囮にしておいて……。

 かつて、私も勇者パーティの一員だった。

 しかし、裏切られ、死の淵を彷徨い……、それ以来、復讐の時を狙っていたのだ。


 「機は熟したわ。私の、あの三人への復讐のね」


聖女、戦士、そして、勇者。

勇者パーティ三人の顔を思い浮かべる。


 待っていなさい。あなた達に私の恨みを存分に味合わせてあげるわ。


 それから、3ヶ月ーー。


 すっかり平和な空気が浸透し、誰もが油断をしている最中。

 私は、マルス山の麓にぽつんとある家の前にいた。

 ここは、聖女の家だ。


 私は、ドアの前に立つと呼び鈴を鳴らした。


 『はい、すぐに参りますね』と、優しげで呑気な声が家の中から聞こえる。

 私は笑いを堪えながら、聖女が出てくるのを待った。

 そして、ドアが開き、私の姿を認めた途端ーー、聖女は驚きに目を見開いた。


 「あ、あなたは……!?」


 自分たちが見捨て、死んだはずの人間が現れればそんな顔にもなる。

 驚く聖女の隙をついて、私は右手で体を貫いた。

 聖女の体に、大きな風穴が空く。


 「ふふ、私のこと、覚えているわよね?あなた達が殺した、ヴェンデッタよ」


神の加護に守られているこの子は、この程度じゃ死なない。

回復力も凄いから、放っておけば助かるだろう。


「今日はまだ、挨拶がわり。これからたっぷりとあなた達に私の恨みを思い知らせてあげる」


 混乱、そして苦痛に顔を歪ませる聖女に、嘲笑いながらそう言い放つ。


あぁ、なんという至福。


 聖女を通して、じきに勇者パーティ全員に話は伝わるだろう。

 そうして、彼女達は思い知るのだ。


 私の恨みを。


 恐怖と、絶望を。


 今度は、自分達の身で。


「まっ…………て」


 私の服の裾を掴む聖女。

 その力は弱々しい。


「い、いかないで……」


敵を逃すまいということだろうか?


 ふふ、と笑って振り解く。

 私は振り向きもせず、歩きながら


「やめておきなさい。その身体じゃ動かない方が賢明よ。 ……イタっ」


 ゴン、と壁のような何かにぶつかってしまう。


見ると、金色の半透明な壁が目の前にあった。


 結界魔法。

 聖女が得意とする、その名の通り結界を作る魔法だ。


今度は振り返ると、息も絶え絶えの聖女の右手が光っているのが見えた。魔法を使っている証だ。


「い、いい加減にしなさいよ!あなた、いくら聖女とはいえ、それ以上無理したら死ぬわ……ひぃっ!」


情けない声が口から漏れる。

 聖女が、吐血もし、血まみれだというのに、地面を這うようにして私を追ってきていたのだ。


 選ばれた聖女だけが着ることのできる純白のシスター服は真っ赤に染まり、ズルズルと音を立て、いつも優しげな声は、嫌な呼吸音混じりの掠れた声となり、『ヴェンデッタ、ヴェンデッタ』と私の名前を呪文のように繰り返す。


「く、来るな!来ないで!」


 私はすっかり腰が抜けてしまい、座り込みながら喚き散らした。


 弱っているのは明らかに相手の方だ、だけど、抵抗すれば聖女が死んでしまうかもしれない。

 後の計画のことを考えても、まだ殺すつもりはなかった。

 なにより、予想外の事態すぎて混乱しきって、正常な判断が下せなかった。


今日は軽く挨拶をするだけだったのに、今頃、聖女の苦しむ顔を肴に、家でワインでも飲むつもりだったのに、と余計なことばかりがぐるぐる頭を回る。


 分からない、なんでこんなに必死に私を止めようとするの?


 捕まえたところで、聖女の体力じゃ私に有効な攻撃を与えることも、人が来るまで留めておくこともできないと、本人もわかっているはずだ。

 聖女に恐怖を与えるはずが……、気がつけば私が与えられる側になっていた。


「ヴェンデッタ、ヴェンデッタ……」


 私の足元から、聖女が登ってくる。

 べっとりとした生暖かい血が私の体に付く。

 私はすっかり肝を潰しきって、されるがままになっていた。


 私の体を登り切り、聖女の顔が私の真正面に現れる。

 普段なら美しい聖女の顔も、血だらけで、目も虚ろだと恐怖しか感じなかった。

 顔を背けたいのに、顔を手で抑えられているからそれもできない。

 せめてもの抵抗で目を閉じた次の瞬間。


 私の唇に柔らかい感触が伝わった。

 続いて、血の鉄のような味。


 目を開けると、聖女が私にーーキスをしていたのだ。


 「ヴェン……デッ……タ」


力を失ったように、聖女が地面へと後ろ向きに倒れる。

 同時に、私の背中を支えていた結界が消えた。

 ようやく、自由になったというのに、私は動けずにいた。

 私は、気絶する聖女を見下ろしながら、心の中で叫んだ。


 な、な、な……なんなのこいつ!?

 

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