TSウイルスが流行った世界で俺はオペレーターをやる
蓮太郎
第1話 果実は落ちるか①
人類は絶滅に瀕したことがあった。
男性が突然女性になるという事案が多く発生した。
女性になった男性の身体を調べた結果、突然変異したウイルスが原因と判明した。
ウイルスの感染を止めることは出来なかった。
人類の男女比は徐々に女性に傾き、そして男性は絶滅した。
このままでは繁殖できないため人類は詰みかと思われたが、科学力で人工的に精子を作り出し、何とか存続することが出来た。
そうして数百年の月日が過ぎて…………
「俺が産まれたって訳ね」
『ID.01、何を独り言を言っているのですか?』
「独り言だからツッコむなよ」
そういってホログラムで映されていた画面をフリック操作で消して、スピーカーから聞こえた声に答えた。
俺に正式な名前はない、しいて言うなら先ほど機会音声で言われた『ID.01』もしくは『ミーシャ』だ。
さっきは男性が女性になってしまうウイルスことTSウイルスの話をしたが、俺はれっきとした男だ。
TSウイルスが流行した結果、他人の体細胞で作られた人工精子で産まれた子供も俺が産まれるまでは全員女だった。
たまたま俺が奇跡的に産まれて、裏で社会を管理しているAIがそれを知った瞬間に俺を母さんから取り上げたって話だ。
そして俺は無菌室でずっと監禁されて生きてきている。
『ID.01、その願いは聞き入れられません』
「ダメなのか?俺だってずっと一人でいるのは嫌気がさしてきているんだ」
『ID.01、オペレーターは貴方の正体に気づく者も居ます』
「今は男性音声が流行ってるんだろ?俺が混じっても気づかないさ」
『ID.01、意思は変わらないんですか』
「変わらない。俺も16だぜ?同い年の子は働いてるのに俺だけ機械でシコってダラダラ過ごすのは精神に悪い」
『ID.01、社会に出てない貴方が何故そこまで言えるのですか』
「前世があるからさ」
監禁生活で人格が歪まなかったのはこれが理由。
俺には前世がある。人として一生を生き、そして死んだら赤ちゃんになっていた。
それで偉大なるAIサマの下で洗脳教育を受けても反抗、脱走を繰り返した結果、監禁生活となる。
まあ精子が欲しいのは分かる。でもこの世界には面白いものがたくさんある。
そう、この世界は魔法と科学を両立させた世界であり、ロボットに乗り込んで世界を探索したりモンスターと言う害獣を退治しているのだ!
憧れないわけないだろう、ロボットだぞ?魔法だぞ?とは言っても一個人では出来る範囲があるし、なんか俺、魔法使えないし…………
とはいえロボットの方は操縦は出来る。しかしAIが許してくれないので妥協してオペレーターをしたいとごねているのだ。
だって暇だもん。
『ID.01、協議の結果、存在を秘匿した状態で認可されました。試験的にボイスチェンジャーを使わず、今後の合成音声に利用させていただくことに同意させていただければの話です』
「別に。ただ絞られるだけの機械じゃないんでね」
よぉし!やっと許可が下りた!時間にして652時間粘った甲斐があった!
知識は大量に余っていた時間で確保したから問題ない。オペレーターテストも80点台を常にキープして合格するくらい勉強した。
あとは実戦だけだ。初心者とはいえシビアな世界に容赦などない。
初仕事は頑張るぞ。決して死なせないようにしなければ、ね。
「ふーん、男性声オペレーターね」
リーファーズ、国に雇われ巨大ロボットを操作する人員の総称である。
今日も明日も明後日も、生き延びさえすれば古代の遺跡を探索し、モンスターを狩る。
そしてモンスターの肉を喰って明日に向けて寝る。
時々ギャンブルを楽しみ金を使い、そして借金こさえてまた明日働く。
そんな日々で漠然とどこかで野垂れ死ぬの思っていたら、たまたま新人オペレーターのテストをしたいという広告があった。
オペレーターには当たりはずれはあるが、声がよければそれでよし。
男性音声のオペレーターもたまにいるが、基本的にボイスチェンジャーか合成音声なので粗がかなり目立つ。
だから今回も大したことないのだろうと思いつつ、報酬目当てに応募してみると当選しちゃったわけである。
「ま、森のネズミ共を退治して報酬倍になるんだからお得でしょ」
巨大ロボットである『ユグドル』に乗り込んだ彼女は指定された回線を開く。
『ユグドル』は基本的に街の外周に格納庫があり、一台一台のために貸し出しとして料金を支払っている。
その駐車料金も確保しなければいけないので今日も働くのだ。
『
ノイズが走った後に通信機から異様に低い声が聞こえた。
今まで聞いたことのない声で戸惑い、しかし新人オペレーターということはすぐに理解できた。
何故なら音声の質が今まで聞いてきた男性声よりも非常になめらかなのだ。
ノイズは多少走るものの、女性が頑張って低い声を出そうとしていたり、人の声か疑うようなものもあったりするのだ。
「え、ええ聞こえるわ」
『そちらの識別名は…………「ドロップ・アップル」で間違いないな。広告で見た通り、俺は新人オペレーター、名はそうだな、ミハエルとでも呼んでくれ』
「ミハエルね、中の人はいるのかしら?」
『安心してくれ、しっかり中身入りだ』
AIのオペレーターではないということに「ドロップ・アップル」は、ここからアップルと呼ぶが、安心した。
AIオペレーターも一定の安定性はあるのだが、人間特有の勘やトラブルが起こった際の責任がないのだ。
もし何かあればAIではなく『ユグドル』の操縦者に全ての責任が行くため、責任が分散されるという事はパイロットにとって安心できる材料となる。
『さて、今日は異常発生したマドラッドの退治だな。クソデカいネズミがいるって時点で迷惑だが、どうやら周りの木を齧って資材がやられているらしい。やることは分かってるな?』
「もちろん、報酬は弾んでくれるんでしょうね?」
『予定外の襲撃とかなければ提示額通りだ。よろしく頼むぞ、先輩?』
「ふふっ、任せなさい。ドカッと構えて周りを報告してくれたら何とかしてあげるわ」
自身に満ちた声でアップルは言った。
全戦全勝とは口が裂けても言えないが、そこそこの経験を積んだアップルがマドラッドに負けるはずもない。
「行くわよ、『ドロップ・アップル』出撃よ!」
赤と黄色に塗られた機体は格納庫から出撃する。
『さて、周囲の観察をはじめるか』
通信機から新人オペレーターの声を聴きながら、目的地へと向かう。
なお、アップルはミハエルと名乗った声を本当に男性だという事は信じていない。
何故なら男性は絶滅した伝説上の存在となってしまったのだから。
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