舞台に上がる者
エーテルリア連邦議長、セネカ・エルディティオ。
加盟各国による合議制を是とする連邦において、独断でエリンディアの独立騎士団を招いたこの男の動きは実に早く、したたかだった。
「いい加減に目を覚ましたらどうです!! 連邦の繁栄など、二十年以上前に終わっているのですよ!! 今の我々に独力で帝国を押し返す力はない……だからこそエリンディアの勇者たちと力を合わせ、帝国の脅威に怯える国々と共に立ち上がるべきではないのですか!?」
突然の独立騎士団の
大勢の国民を前に、イルレアルタという伝説の再来が連邦の味方についたこと。
そして閉鎖的な連邦の体制を転換し、かつて剣皇ヴァースが反レンシアラの盟主として躍進したように、反帝国を旗印に連邦を大陸の盟主へと押し上げることを約束して見せたのだ。
「――今回の一件、私たちは完全にセネカ議長の〝政争の材料にされた〟ってわけね。悔しいけど、さすがは連邦の議長……私なんてまだまだだわ」
「本当に凄い盛り上がりだった! 政治のことはよくわからないが、連邦の人々も私たちを歓迎してくれていたのは嬉しかったな!」
「はいっ。これなら、他の国との協力もうまくいきそうそうですね!」
「コケ!」
事実、セネカの演説をそのまま受け取ればそうだろう。
リアンやニアの印象とは異なり、少なくとも公聴演説に集まった連邦の国民たちは、連邦の衰退と存亡の危機を〝大いに理解していた〟。
自らの意志に反対する議員の声を、セネカは圧倒的民意を盾に封殺したのだ。そして――。
「――お待たせして申し訳ありませんでした。改めて、私ども連邦へのご協力に心から感謝致します。エリンディアの皆々様!」
シータたち一行があてがわれた豪華な客間に、長い金髪をオールバックに纏め、連邦議長のセネカがやってくる。
セネカは数人の侍従を部屋の外に待機させると、客間に用意されたティーポットを手に、シータたち一人一人に温かな紅茶を振る舞う。
「どうぞ! 皆様のお口に合うと良いのですが」
「あ……ありがとうございますっ」
「いただこう!」
「それにしても、随分と危ない橋をお渡りになさるのですね。せめて、私たちには議長のお考えを事前にお伝え下さってもよかったのではありませんか?」
「残念ながら、今の連邦はどこに敵が潜んでいるかもわからない状況です。特に私の失脚を目論む者たちにとっては、帝国との戦いが長引くほど利益を得ることにもなりますし……こちらの事情を先にお伝えできなかったことは、重ねてお詫び申し上げます」
自らも席に腰を下ろし、セネカはシータたちに頭を下げる
「先の演説でも話した通り、もはや私たちに独力で帝国を防ぐだけの力はありません……今日まで連邦が戦えたのは、帝国が戦力を大陸各地に分散していたからです。しかし今や帝国はその総力を結集し、私たち連邦を滅ぼそうとしている。さらには――!!」
セネカの語りは勢いを増す。
時に沈痛に、時に怒りすら浮かべて語り続けるセネカに、シータたちは半ば圧倒されながら耳を傾けた。
「――にも関わらず、〝私以外の皆様は〟誰も彼も自分の保身のことしか考えていない……! 連邦がなくなってしまえば、議員としての肩書きだってなーんの役にも立たなくなるというのに……まったく、今の連邦議会なんて、どうしようもない愚か者の集まりだと思いませんか。ねぇ?」
(この人……凄いけど……)
そう言って大仰に首を振るセネカの言葉に、シータは思わず顔をしかめた。
シータとて、セトリスでの経験で国を治めるということの難しさや、人々が団結することの難しさは理解し始めている。
だがそれでも、同じ国に住む仲間を平然と見下すセネカの態度は、今のシータには理解しがたいものだった。
「……心労お察しします。我々独立騎士団も、連邦のため、そしてその先に掲げる帝国打倒のために、協力を惜しまない覚悟です」
「なんと心強い! 今後、皆様には〝私直属の遊撃隊〟として臨機応変に帝国軍との戦いに参加できるよう軍部の者にも伝えてあります。期待していますよ、エリンディアの皆様!!」
――――――
――――
――
「よく来たねぇ! こうして顔を会わせるのも、随分と久しぶりじゃないのかい?」
「三年前の帝都以来になります。またこうして戦場を共に出来ること、嬉しく思います。ルイーズ殿」
「おーう! ついでに私も来てやったぞー。久しぶりだな、ルイーズの婆さん!」
「ハッ、イルヴィアまでいるのかい! 優等生のガレスと違って、相変わらず口の減らない娘だよ!」
エーテルリア連邦領、その半ばまで深々と進軍した帝国軍の本営。
周囲に〝数十を超える
「ついさっきこっちにも報せが入ってね。あんたらが追ってる星砕き……二日前にエーテルリアで一騒ぎ起こしたそうだ。これで〝ヴァースの睨んだ通り〟になったねぇ」
「飛翔船を手に入れた星砕きは、必ず連邦との戦場に現れる……これでようやく、我々も陛下からの勅命を果たすことが出来ます」
「頼むよ。星砕きに好き放題やられちゃ、どんな戦場だって一瞬でひっくり返されちまう。味方ならあいつ以上に頼もしい奴もいないが、敵に回せば最悪の相手だ」
ガレスとイルヴィア。
帝国騎士団において第三席と第五席という高位を授かる二人も、このルイーズ相手にはまるで師を仰ぐ弟子のような様子を見せる。
しかしそれも当然のこと。
このルイーズ・カル・オーガスこそ、天帝戦争時代からの剣皇の右腕にして、全帝国騎士の筆頭を預かる第一席。
ケルドリア大陸最強と謳われる、
「これで〝七つの騎士団〟が連邦を叩き潰すために集まったってわけだ。これで負けたら、ヴァースの奴に死ぬまで笑われちまうところさね」
「では、他の者は皆戦地に?」
「ああ。今ここにいるのは私と――」
「――ただ今戻りました!」
その時。本営前で戦況の説明を行うルイーズたちの元に、白銀の装甲に鮮やかな緑の差し色が施された、優美な意匠の天契機が静かに舞い降りる。
「キリエ! 連邦の奴らはどうだった?」
「ルイーズ様のご命令通り、深追いはせずに半壊に留めました。恐らく、斥候目的の先遣隊の一つかと!」
明るい声と共に天契機の胸部が開放され、そこから栗色の髪に銀色の瞳を持つ一人の少女が姿を見せた。
「あの~……もしかしてそちらにいらっしゃるのって、第三席のガレス様と第五席のイルヴィア様でしょうか?」
「いかにも。ならば、君が新たに陛下から第二席の座を授かったという……」
「はいっ! 私が帝国騎士団第二席、
キリエと呼ばれた騎士装束の少女は胸部装甲の上で敬礼し、ガレスとイルヴィアに咲いた花のような可憐な笑みを浮かべた――。
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