妹からの返信

🍻


お兄ちゃんへ


 お手紙届きました。ありがとう。頑張ってくれた伝書鳩さんを褒めてあげてね。

 お兄ちゃんがそちらで幸せに暮らしているのがわかって、私も嬉しいです。

 だからね、お兄ちゃん。もうしばらく、そっちで暮らしてください。帰国はうんと延期して。


 驚かないで最後まで読んで欲しい。あと、絶対に信じて欲しいの。


 お兄ちゃんからの手紙は、お兄ちゃんが亡くなった3日後に届きました。

 7月*日の飛行機で帰国するはずだったお兄ちゃんは、飛行機事故で亡くなったのです。


「は?」ってなるよね。わかります。でも、ちゃんと読んで。



 フライトの前日に、また大雨が降ります。世界的規模の大雨です。

 これは公にはなっていないのですが、実はそれ、呪いのかけられた雨なのだそうです。お兄ちゃんの乗る飛行機は、機長がその雨に触れたせいで突然体調を崩し、離陸直後に海上に墜落します。乗客乗員全員死亡という大事故です。


 呪いの雨だなんて、私の頭がおかしくなったと思う?

 そう思われても仕方ないけど、それでも、飛行機には乗らないで。絶対に、乗らないでください。事故が事実である証拠に、こちらの新聞を同封します。


 それから、その日降る雨にはなるべく触れないよう、屋内で過ごしてください。修復工事中の橋には雷が落ち、また崩落します。辺り一体も水害に見舞われます。なるべく頑丈な建物の上の階に避難するよう、そちらの皆さんに伝えてください。もちろん食料や水も用意してね。

 お願いだから、信じて。お兄ちゃんが死んじゃって、私ひとりぼっちだよ。すごく悲しくて、それこそ頭がおかしくなりそう。


 じゃあなんで、自分はこの手紙を読めているの? お兄ちゃん、そう思ってるでしょ。

 実は、渡航準備やら何やらでバタバタしているとき、家にある人が尋ねてきたの。

「想いを伝えたい人がいませんか?」って。

 その人は代筆屋の白野さんという方で、現在過去未来、どんなに離れた相手にも手紙を送ることができるんだそうです。

 白野さんには伝えたい強い思いを感じ取る能力があって、たまたま家の前を通った時に私の思いを感じて、手紙への返信を申し出てくれたの。


 ……言っちゃ悪いけど、胡散臭いよね? 正直、私もそう思った。

 でもね、私は彼の提案に乗るしかなかったの。信じるしかなかった。ほんのわずかでもお兄ちゃんが助かる可能性があるなら、なんだってやる。

 大雨の呪いというのも、白野さんから聞きました。白野さんの家系には不思議な能力を持った人がたくさんいて、そういうこともわかるんだって。


 お父さんとお母さんが亡くなってから、たった一人で私を育ててくれたお兄ちゃん。

 口喧嘩ばっかりしちゃうけど、それでも大好きなお兄ちゃん。

 お仕事忙しいのに、いつも私を気遣ってくれる、優しいお兄ちゃん。

 センスはイマイチだけど、「留守番のご褒美」って言って必ず出張のお土産を買ってきてくれるでしょ。今回もそうしてよ。帰るのはもっと先でいいからさ。私、いい子にして待ってるからさ。お願いします。

 

 白野さんの能力で、この手紙を過去のお兄ちゃんに送ります。お兄ちゃんが私に手紙を出した、翌日に着くはず。

 どうか、ちゃんと届きますように。

 どうか、お兄ちゃんが無事でありますように。

 お願いだから死なないで。




大好きなお兄ちゃんのかわいい妹、樹里より。



🍻

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