ご連絡をお待ちしております


 素早く返信を終えた白野は「これで、よし」と呟いた。


「この家は特に防御機能がしっかりしてるから、当日には能力者達が集まると思う。最大で50人くらいだな。俺たち3人とも、呪いに対抗する能力は持ってないから、能力を持った人が来てくれた方がより安全だしね」

「わかった。セミナーの会場を提供、ってのが返事の暗号なんだね」

「この家、やけに広いと思ったらそういうことか。避難所みたいな」


「ふむ、飲み込みが早いな」

 思わず感心する白野だったが、ふと双子の不安そうな表情に気づいた。


「不安かい? うちにも優秀な結界師や祓師を派遣してもらうから、大丈夫だよ。避難所といっても、親戚が集まっての宴会みたいなもんだし」


「……呪いって、もし受けちゃったらどうなるの?」

「ってか、そもそもなんでそんなことするの? ひどくない?」


 双子は少し悲しげで、また、少し怒ってもいるようだ。眉尻が下がり、唇を引き結んでいる。抱きしめてやりたかったが、それも宜しくないかもしれない。白野はタブレットを置いて、双子の頭をポンポンと触れるに留めた。


「呪いを受けると、か……今回の場合はおそらく、祓いきれなかった呪詛が混じった雨に触れたりすると、気力や活力みたいなものが弱まるんだろう。そうして他国を弱らせることで、自国を優位に立たせようって魂胆だ」

「じゃあ、日本は防衛できたとしても、他の国は弱っちゃうの?」

「どうだろうな……他の国でも何らかの方法で護ってるとは思うけど」

「他を弱らせるんじゃなくて自分が頑張ればいいだけじゃんね。ムカつく」


 自分も不安なのに、他の国の心配をしている。優しい子たちだ。月子の方はちょっと勝気みたいだけれど、考え方は正しいと思う。子供らしいまっすぐな正義感が眩しい。


「……私たちも……日本も、呪いとかやるの?」

「それは無いと思う。さっきも言ったけど、日本は霊的な力がとても強いから他国を呪う必要がない」


 あくまでも、という点ではね……と心のうちで呟いた。

 そして双子に対し、ニヤッと意地悪に笑って見せる。


「ただ、呪詛返しぐらいはするかもな」

「呪いを相手にはね返すってこと? いいじゃん、やったれー!」

「そっか。それなら、相手の自業自得……だよね?」


 二人の少し表情が明るくなった。この勢いで不安を吹き飛ばそう。不安が呪いを引き寄せることもある。


「よーし、じゃあこれから家中の掃除するぞ」

「「えー?!」」

「人が集まるからな。全部いっぺんには無理だから、一部屋ずつやっていこう。あと客用の布団干しも」

「「ぐええええ」」

「文句言わない。俺なんか買い出しもあるんだからな!」


 ぶうぶう言う双子を追い立てて階段を上がる。体を動かすことは不安を吹き飛ばすのにも丁度いい。季節外れの大掃除、まずは二階の奥の部屋からだ。


「どうせ世界中に念を送るならさ、『みんな元気に幸せになれ〜!』って送ればいいのにね」

「ツキ、それいいね! そしたらみんなハッピー」

「そんで掃除とかしなくて済む」

「あははは、そっちの理由?」


 目の前で交わされる双子の会話を聞きながら、白野はそっと目元を拭った。



……珠ちゃん、君の娘たちはいい子に育ってる。早く戻っておいでよ。でなきゃせめて、連絡くらいはさ。



🍻


〜 六通目 スペシャルゴッド通信からの緊急指令・完 〜


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