武光からの文
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母上様
もしや私の不在を聞き及び 心配されているのではと思い筆を取りました
どうかご安心ください
武光は今 千年後の 東京 という地で息災に過ごしております
誠に面妖なれど どうやらこの時代の一人と 精神が入れ替わってしまったらしいのです
父上様の指示により博多での合戦を離れ 追手から逃れる道中 落馬した私は 気付けば白く眩い光に包まれておりました
まずは地鳴りのような怒号が聞こえ 続いて眩んでいた目が見えるようになると 私は なんとも恐ろしい異形の者どもに囲まれていたのです
そこは巨大な広間で 天井は千の太陽が輝くかの如き眩さ
立ち上がって見渡せば 四方を鋼の縄で囲われた舞台の上に私は居りました
そして襲い来る異形の者どもに対峙し大暴れする私を 数多の観衆が囃し立てるではありませんか
悪い夢でもみているのか はたまた百鬼夜行に巻き込まれたか 眼前には聞き及んでいた地獄とも全く異なる光景
隙を見て其の舞台から飛び降り 脱兎広間を抜け出し物陰に身を潜めたもののすぐに捕らえられ 最早ここまでと覚悟を決めたものでした
しかし 異形の者どもはみなその恐ろしさに見合わぬ善き者達でありました
はじめこそ訝っていた様子なれど 親身になって何くれと世話を焼いてくれるのです
大鏡に映った己の姿を見た時には再び気を失うかと思われました
それに映るは これまた異形
何を食らえばここまで肥えるかと首を捻るほどの大入道
通りで体が重たいはずだと 得心したものです
この身体の持ち主である ごっつぁん という御仁は仲間からの信頼篤く おかげで私も大層助けられました
彼らの異形と見えた姿も 実は珍妙な装束を纏うが故で 面や衣を脱ぎ捨てれば我らとなんら変わりませぬ
目や髪 肌の色までもが違う者もあり魂消ましたが 皆一様に気の良い若武者であります
彼らは馬に乗らず弓も引きませぬ ただ 体術についてはかなりの手練れで その強さたるや不動明王様を思わせるほど
多くの技を惜しみなく授けて下さいました
なかなか聞き取れず戸惑った言葉も 慣れてみれば 不思議と通じるもの
毎日彼らとともに語らい 喰らい 鍛錬に汗を流す日々に御座います
母上様 千年後の日本は戦禍や飢えに苦しむ者もなく誠に平和であります
天を衝くような大きな建物が並び 夜中を過ぎても部屋の中は昼間のように明るく
女子供が一人で外を歩いても なんの危険もありませぬ
人々は見たこともない様々な道具を平然と使いこなし 身綺麗で安らかに満ち足りて見えます
さらに驚くべきは 異国の列強に堂々と肩を並べ 各国からの信頼と尊敬を勝ち得ているというのです
それを聞いたときには胸が震えたものでした
否 今も熱く打ち震えております
これぞまさに父上の目指したもの 我らが目指すべき未来と言えましょう
この武光 素晴らしく豊かな時代への第一歩 九州地方の平定という野望を胸に 必ずや元の時代元の体へと戻ります その手立ても整いつつあります
その日まで こちらの世界で一つでも多くのことを学び お家のためお国のために活かせるよう尽力いたします
文になど書ききれぬほど お話ししたきことがたくさんございます
次にお会いできる日まで 母上様もどうか恙無くお過ごしになれますようお祈り申し上げます
令和六年 六月
菊池武光
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