「桜ノ宮公園前バス停」
毎朝、彼は元気いっぱいに尻尾を振りながら、私のもとへ向かって来る。 彼の足音は静かな室内に響き、私はその音を頼りに彼の近づいて来るのを感じる。そばに寄って来た彼を撫でると、暖かい体温と柔らかな毛並みが指先に伝わる。 その温もりと共に、強い命の存在が私の手の平から感じられる。 彼の体から感じる力強さ、そして穏やかな温かさに、私は心から彼と共に暮らせるようになった事を感謝する。
外出の為に彼にリードを装着してリードを手にすると、彼はすぐに私の横にぴったり寄り添うようにし、その動きに迷いはない彼は高い知性を感じさせるような真剣な様子で、私をリードしているのがわかりました。 彼の歩みと私の歩調がぴったりと合い、静かな調和の中で私たちは進んでいく。
彼の存在がまるで私の身体の一部のように感じられる。彼の柔らかな毛が足に触れる、リード越しに感じる彼の力強さと頼もしさに嬉しくなる。ほんの少しでも彼の動きを感じることで、私の周りの世界が少しずつ形を持ち始めるのだ。
家の近くのバス停を通り過ぎ、いつもの公園へ向かう。通りに出ると彼は巧みに人や障害物を避けながら歩き続ける。信号機の前で彼は正確にその場で止まり、周囲を警戒する。信号の音や、周囲の人々の話し声が遠くから聞こえる、私は耳を澄ませながらその動きを待つ。
私の足元には確かな感覚が通り、彼の歩みに合わせて私も慎重に足を進める。彼の働きに毎回感心してしまう。彼との生活は、私にとって安心感と自由を提供してくれる。 彼の体温を感じるたび、私は自分の足元がしっかりと支えられていることを確信する。 その安心感が、日々の歩みを力強くしてくれる。
耳を澄ませば、楽しげな小鳥のさえずが聞こえる。彼と並んで歩いているうちに、桜ノ宮公園に近づいてくる。公園の入り口付近にバス停があってそこで声がかかる。
「あ、おにーさん,今日がその日なの?その子がそうなの?とっても賢そうなわんちゃんだね!」
まだ幼さの残る元気な女の子の声だ。いつもここでよく会う少女で私の数少ない友達の一人だ。
「今はまだ仕事中だから少し待って。ベンチで休もうかな。ベンチはどこかな?」
そうして少女と共に公園のベンチへと向かう。
「盲導犬っていうんだっけ。ほんとうにすごいよね!」
少女は明るく元気な声でそう言いながら友の頭や体を撫でている。
「彼と共に過ごすようになってまだほんの数日だけれども,とても助かっているよ。」
「そうしたら,もうバスに乗る事はなくなっちゃうの?」
彼女は少しさみしそうに尋ねてきた。声は少し震えていていつもの快活さが無かった。
「一応盲導犬もバスには乗れるんだけれども,犬が一緒に乗っているのを嫌がる人もいそうだから彼と共にバスに乗るのはやめておこうと思うよ。私だけが一人で外に出て昔の通りにバスに乗ってしまったら彼一人家でお留守番になる。そうなるのは可哀そうだろう?」
「こんなにかわいくていい子なのに!」
彼女が私の友のために怒ってくれている。そのことがなによりもうれしく感じた。
「う~ん,それじゃあこれからはバス停じゃなくてこの公園の入り口で待ち合わせしようね!」
こうして2人と一匹のささやかな交流が深まっていく。
オムニバス作品
https://note.com/all_moooosha/n/n9e85a1af2a34
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