いつまで
重苦しさを感じながら体をゆっくりと起こす。さきほどまで嫌な夢を見ていたので気分は最悪だ......。ここのところ悪夢ばかり見ている。いつまでこの夢を見続けなければならないのだろうか...ずっと同じ夢を見ているのだ。同じ夢…過去の夢を繰り返し見ている……。
眠っているとき胸がザワザワして途中で目が覚めることがある。ちょうど深夜2時。
丑三つ時と呼ばれる時間でなにかがでてもおかしくない時間帯だ。どうにも落ち着かない。なんだか不吉さを感じてやまない。じっとりと暑くて汗が滲む。
エアコンはつけてるのにうまくかかってないようなのだ。寝る前にはきちんとクーラーをかけてから眠っているのに目が覚めるとクーラーがほとんど動いていない。寝苦しさを感じながら1時間くらいかけてどうにか眠る。それがいつも繰り返される。そうして朝起きると体が鉛のように重いのだ。疲れなどあまりとれていない。不眠状態ではないがいっそ眠らない方がましの時もある。常に体調不調の状態だ。
熱もないので仕事を休む事もできず不調のまま動き続けている。病院にいっても過労なのだろうとしか言われない。病院で睡眠剤を貰ってもやはり必ず深夜の2時頃に目が覚めるのだ。いつまでこの苦しい状態が続くのだろうか
そうしてとある夜.....いつものように真夜中2時に目が覚める。ふと声が聞こえるのだ
「......いつまで......いつまで.....」かすれたようなしゃがれ声だ不気味極まりない。
隣の部屋からではないようだ。だがすぐ近くで聞こえるのだ。部屋のベランダを覗いてみても人影などない,それはそうだここはアパートの4Fなのだ。部屋中を歩き回るのだが声の原因がわからない。怖い......。
…なんだか寒気がする。布団を頭から被って耳を両手で塞ぎ早く声が消えるよう祈る。起きていてもあのいつまで…という声が脳内で響いている気がする…。いつまで苦しまなければならないのだろうかそんな思いが消えない。
いつものあの声のあとどうにか眠った。不気味な夢を見た。恐ろしい大きな影が闇の中声をかけてきたのだ…。
「足元をみてみろ。そこにお前が埋まっている。お前の死体だ。お前は死んだも同然だ。」
そうやって大きな手で足元を指さしてきたのだ。
「いつまでもいつまでも過去を捨てられない、それは今を生きているということを否定しているのだ。いつまでもいつまでも古い思い出を捨てられない。お前は生きた心地がしていないのではないか?それはそうだろう。過去に縛られるということは今生きることができないということなのだ。」
低く響く恐ろしい声だった。
「おまえはいつまでそうしているのだ?おまえはいつまで過去を繰り返しているのだ?いつまで過去に縛られているのだ。いつまで…いつまで…」
そうやって低い声でなんども言ってくるのだ。その影は自分の姿をしていた。
※
妖怪「以津真天」昭和以降の妖怪関連の文献では、いつまでんとも読まれている。
戦乱や飢餓などで死んだ人の死体をそのまま放っておくと、この怪鳥が死体の近くに止まり、「死体をいつまで放っておくのか」との意味で「いつまで、いつまで」と鳴くもの、またはそうして死んだ者たちの怨霊が鳥と化したものであるという解説がつけられて紹介されてもいる。ウィキペディア参照
主人公が放置した死体は主人公の過去。過去に縛られ今を生きていない、だから主人公は死んでいるのと同じ。過去に縛られた主人公の後悔から妖怪がうまれ「いつまで」と語り掛けてくるようになった。過去を乗り越えられるまでこの妖怪はいなくならないだろう。過去を供養しなければ過去は終わらない…
短編集 雲色 翼 @ruri6464
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