猫ノ物語

私は猫である。

路地裏でひっそりと暮らす孤独な猫。

自分の為だけに餌を捕り、寝床を守って一人で戦っていた。

仲間などいない 私はどこまでいっても孤独であった。


私の寝る住まいは冷たく厳しい風に晒されていた。

それに比べ他の猫達はなんとぬくぬくとした住まいだろうか。


他者を羨んでいても空腹は満たされない

私は今日も一人冷たく固い床で眠る。

腹は減っている。当然だ独りで得られる糧など毎日得られるものではない。あちこち歩き探し回ったから体は疲れ果てている。

明日も何とかするだけだ。


誰も私などという存在は見てくれず、また助けてくれもしなかった。

私に親はいたが彼らは私に何も与えはしなかった。

私一人を残して彼らはどっかへ行ってしまった。

私は幼き頃から一人で生きるしかなかった。

ひとりには慣れている。問題ない。

痛い…。寒い…。だが耐えるんだ…。明日はまたやってくる。

私にはなにもない。私にあるのは自らの温もりだけだった。


朝がやってきた。まただ。逃れられない日々にうんざりしつつ固い体を起こして動き出す。周りの猫たちの目は冷たい。

硬い態度であれらを一瞥する。何もしてこないように警戒する。

小さくも弱い存在、精一杯強がって生きるしかなかった。


私は一匹の猫だった。

他の者達は群れて生活していた。そのゆるい生活と仲間や家族が羨ましかった。家族がいるものたちは簡単だろうな。仲間がいれば暮らすのはだいぶ楽だろう。家族や仲間がいれば支え合える。

だが私は彼らと違う生き物だった。仲間に入りたかったが彼らは違うモノである私を受け入れなかった。私は虐げられた。違うというだけで…。


今日もまた地面の砂を舐めた。私は自らの傷を自分で舐めて癒やした。食べ物をどうにか得られた。少しでも力を養わねば。

固い床が体に堪える。寒くて痛い。でもこんなことでへこたれていてはいけない。こんなところで負けてはいけない。


私には入って欲しくないテリトリーがあった。

そこだけは誰にも侵されたくなかった。

けれどその場所をやつらが無遠慮に荒らしていく。

私の心は荒れ果てた。守ろうとも侵され、私は傷つき悔しさに涙を飲んだ。私がなにをしたというのだ。絶対に許さない。彼らがしたことを私は忘れない。


私は彼らには何もしなかった。ただ仲間にして欲しかった。それだけだ。だけど彼らは私がそこにいるというだけで邪魔そうにして追い払おうとしたり痛い事をしてきた。


違うからいけないのだろうか。私は彼らと同じようには生きられなかった。なぜ…。わからない。合わせて自分を抑えて我慢さえすればいいのか。我慢できない私が悪いのか?それは違うだろう?

親がいない私を蔑む彼らと同じになどなりたくない。


私は一匹の猫である。居場所を探して、安息の寝床を探す。

私にあるのはただここではないどこかへの望み。

それはいつしか夢となった。夢を見つける為に私は探す。

どこまでも遠く、儚くとも私は夢を見続けた。


混沌とした海を抱えて生きる私。

私の魂はこの世界を漂う。

形なきこの彷徨える魂をクラゲのようだと思った。


クラゲの姿は本当にいろんなかたちがあるから

潮の流れに流されてしまうくらい弱いから。

ふわふわと漂いどこまでも遠くへいくから。

私は魚たちみたいに群れでは暮らせないから。

貝のように固く閉ざして己を守れなかったから。

悠々と泳ぐ大きな魚やイルカ等にはまだ成れないから。

それでもこの広い海を探し流離う。


私は私である どこまでいっても私なのだ。

だからここに縛られず自由に歩もう。クラゲのように。

ゆこう。ここではない何処かへ

どこにゆくでもなく ただ遠くの何処かへ。


素晴らしい世界がそこにあるだろう

美しい景色があるだろう 素敵な出会いがあるだろう

尊きものたちが何処かにあるだろう

探しにゆこう。私の行きたい場所へ。


暗い路地裏から一歩私は足を踏み出す。

知らない場所は怖い。だがここよりずっといいだろう。

ここにいる彼らを妬ましいと思う事ももうないだろう。

そうして私は旅をする。


町を出たら広大な野原があった。丘があった。

見たことのない草や花があった。知らない生き物もいた。

小さな生き物や虫を食べて生きつないだ。町にいたころよりは食べ物が豊富だった。森があった。大きい獣もいた。

そこにはキラキラした世界があった。ここに来てよかった。

いい景色が広がっていた。面白いものもあった。

もっと世界が見たい。


よい住処を探そう。私の居場所はどこかにあるんだろうか。


今もなお彷徨い歩いているその途中

私は物語を紡ぐものである。


”私は私を物語達に注ぎ、私をその中で生かせる。

私は私を物語に捧げ、その生き様を描く。

私の描いた物語、そこに私は残る。

たとえ独りぼっちの猫でも誰かはその物語を覚えていてくれるだろう…。きっと誰かの心に残るだろう。


そうして物語を夢に抱いて私は眠る”

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