第25話


 朝になり、二日酔いでダウンしていたミーシャと一緒に飯を食う。

 背骨の加工が終わるまでは街に滞在する必要があるが、娯楽が何もないこの村では大してできることもない。


 筋トレとランニングをして鈍らないよう身体を鍛えたら、イオ達のところへと向かって話を聞くことにした。


「Sランクの魔物の情報、か……もちろん構わねぇが……どうしていきなり?」


「まだ戦ったことがないことに気付いたからな」


 闘技場を出てからというもの、心震えるものに出会ったことは数えるほどしかない。

 俺はとにかく、刺激に飢えているのだ。


 結局ガレフォンの街にある美味いものや娯楽も、楽しむ前に出ることになってしまったからな。


 トラッドファミリーの長男達は、まったくもって肩透かしだった。

 街にいられなくなったのもあいつらのせいだしな。

 これほどに迷惑をかけられるとは……思い出すと、今になっても腹が立ってくる。


 イオと戦うのは結構楽しいが……本気でやれば、すぐに加減が利かなくなってしまうからな。

 生き死にの話になってしまえば自分を抑えきれるかわからないので、こいつを相手に本気で戦うつもりはない。


 中途半端におあずけを食らってしまっているせいで、今の俺の戦闘欲は、かなり高まってきているのだ。


「……はぁ」


 呆れたような顔をするイオが、手に持っている陶器をくるりと回す。


 彼は久しぶりの休暇ということで、真っ昼間から酒を飲んでいる。

 当然ながら俺もその相伴に預かっていた。


 ちなみにリルは別の部屋にいるため、ここにいるのは二人だけだ。


「戦うなら魔物を相手にした方がいい。ガレフォンで俺は、それを学んだ」


 俺は骨を加工したら、渇きを満たすための何かを探しにいくつもりだ。


 強い人間に喧嘩を売るのもいいが、ガレフォンで学んだが人間相手にいざこざを起こすとどうにも面倒になってしまう。

 それに街での強さは純粋な戦闘能力ではなく、金とか権力とかそういった方面の強さを指していることも多い。


 それなら自然界に暮らす強靱な魔物にターゲットを絞った方がいい。


「俺が知ってるSランクの魔物は、全部化け物みてぇな強さを持ってる。挑んだら、命の保障はないぜ」


「保障がないから、人生は面白いんじゃないか?」


「――ははっ、そうかよ」


 ぐいっと酒を呷ったイオが笑いながら、口につまみを含んだ。

 彼はがちゃんと音を鳴らしながら陶器を地面に置くと、立ち上がり何かを取ってくる。


「俺が知ってるのは、魔晶病の治療薬に素材が必要なヴァンパイア、炎古龍アグニア、王狼バイトの三体だけだ。だがこの三つに関してなら、バステルでも五本に入るくらいには詳しいぜ」


「それは頼りになるな」


「Sランクの魔物はきつい閲覧規制がかかっている。下手な雑魚が手を出せば、そのまま街の一つや二つは飲み込むような化け物ばかりだからな。だからそのあたりの分別がきちんとつくBランク以上の冒険者じゃないと、そもそも情報を得ることができないようになってるのさ」


 人の口からSランクの魔物を探ろうとすると、とんでもない時間がかかるということだった。

 Sランクに最も近いと言われるAランク冒険者であるイオと知己になれたことは、幸運だったのかもしれない。


 自慢じゃないが、ギルドの言われた通りの魔物を狩って評価を稼いで……みたいな器用なことが、俺にできるはずがないからな。

 正攻法で挑もうとすれば、かなりの時間がかかっていただろう。


「だからまあ冒険者としちゃあ情報を漏らしちゃあいけないんだが……一人の戦友として、お前には俺の知ってる全ての情報を教えるさ。もちろんタダってわけにはいかないがな」


「ありがたい。対価は、そうだな……ヴァンパイアの心筋に、炎古龍の逆鱗、王狼の犬歯あたりでどうだ?」


「ばっ、お前っ……」


 パクパクと口を開いたり閉じたりさせるイオ。

 多分だがこいつは、俺からどうにかして素材を融通してもらえないか考えていたんだろう。

 魔晶病を根治させるために必要な素材は、Sランクの魔物の中でも極めて希少性の高い部位であり、金で買えることすら稀なほどにそもそも市場に出回らない。


 だが別に、そんなものに興味はない。

 後生大事に抱えていても使う機会なんぞまずないのだろうし、それなら必要としている人間に渡した方が素材も浮かばれるというものだ。


 俺は素材がほしいわけではなくて、ただ強いやつと戦いたいだけなのだから。


「お前は……なんてやつだ……」


 俺はイオから情報を教えてもらい、それらを頭に叩き込むことにした。

 そして更に数日ほど待ってから手を加えてもらった骨を手に、この地にしばらく留まるというイオ達に別れを告げる。


「またな」


「おうっ! いいか――死ぬんじゃないぞ! ヤバいと思ったらすぐにでも帰ってくるんだ!」


「ああ」


 俺とミーシャはアセロラ村を出ると今までとは進路を変え、南へ向かうことにした。

 目指すはバステル王国の南方にあるグラベル火山――その最下層に住まうという、炎古龍アグニアだ。

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