第20話
アセロラ村に向かう道中は、久しぶりに有意義な稽古ができることになり、ここ数日は非常に満足のいく日々を送っていた。
稽古というのは基本的に同じか、少し落ちるくらいのレベル帯の相手からしか学ぶものがない。
そういう意味でイオは、適任の相手と言えた。
Sランク冒険者に近い実力というのは伊達ではない。
実戦でない以上本人の二つ名にもなった火剣を使えないのは残念だが、それでもこいつは十分に強い。
「はあっ、はあっ……ギル、化け物並の体力しやがって……」
「スピード型の剣士と違い、俺は剣を振り回すだけでいいからな」
イメージするのは剣の結界だ。
もらっても構わない攻撃はもらい、食らったらマズい急所への攻撃はしっかりと避けていく。
相手の行動を阻害できるように大ぶりで、高速で剣を振れば相手の取る選択肢はそれだけ減る。
手札が見えている状況であれば、俺が読み負けることはない。
「ふぅ……たしかにいい練習にはなるが、自信なくすぜ……」
「真剣でやり合えば、いい勝負になるさ。木刀だとどうしても大して威力が出ないからな」
稽古を終えてテントに戻ると、ミーシャが朝飯を作っていた。
リルが病気なのは本当らしく、彼女は夜になると途端に苦しそうな咳を出す。
食事の度に薬湯や何かを煎じたらしい薬を飲んでおり、今も軽くご飯を食べるとその薬湯を飲み出した。
「そういえば、リルは何の病気なんだ?」
病名を言われてもわからないだろうが、それでも知っておいた方がいい気がした。
二人に尋ねると、ゴスゴスとすごい勢いで肘で小突かれる。
隣にいるミーシャが、その表情筋をフルで使って空気を読めと告げていた。
ただイオは少し悩んだような素振りをしてから、
「リルは……魔晶病だ」
と告げてくれた。
当然ながらまったく知らない病気だ。
といっても、俺が知ってるのなんて風邪くらいだが。
どうやら身体が徐々に水晶になっていき、最終的には彫像のようになって死んでしまう奇病ということらしかった。
「ふぅん、そうか」
「そうかって、お前……」
食事の手を止めて、こちらを見るイオ。
どうやら俺はまた何か変なことでも言ったらしい。
「いや、魔晶病は人に移る病気だと言う風説もあるからよ……」
「移るのか?」
「いや、人に移ることはほぼない。婆さんが言ってたからまず間違いねぇ」
「なら何も問題ないだろ」
そのままおかわりをもらう。
皆の食事の手が止まっているので、全員分を俺が食べ尽くす勢いで器にスープを入れては飲んでいく。
「なんだ?」
「い、いや、なんでもねぇ……お前はそういうやつだよな。自分の不明を恥じただけだ……」
「そうか」
イオは黙ったまま、空を見上げる。
その間に薬を飲み終えたリルに、ミーシャが回復魔法を使い始めた。
馬車の旅は身体に負担のかかるリルには結構キツいものという話だったが、回復魔法のおかげで今のところは体調を崩すこともなく進むことができている。
イオ達の話によると、そろそろお目当てのアセロラ村に到着するらしい。
ついたら武具をなんとかしてもらうつもりでいたが、冷静に考えると俺は今大して金がない。
装備を揃えるためには金を稼ぐ必要がありそうだが、うまい金策でもないものだろうか。
いっそのことどこかで強力な魔物の噂でも見つけられればいいんだが……と思っていると、視界の先にぽつんとした小さな村が見えてきた。
話には聞いていたが……本当に小さいな。
あんなところに本当に凄腕の薬師と鍛冶師がいるんだろうか。
なんだかちょっと不安になってきたぞ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます