第17話
「――と、つまりはそういうわけだ」
「ダメだ、念のためにもう一度聞いても、やっぱり理解ができねぇ……」
俺はイオとリルが住んでいるという自宅に上がり、今回の事情を話して聞かせることにした。
俺と渡り合える剣士の印象は良くしておいて損はない。
なのでリルを助けてやったことをしっかりと強調して話をしたつもりだったのだが、イオは話を聞いても首を傾げるばかりだった。
「なんで俺と会った時に、悪者のフリをする必要があるんだよ?」
「その方がお前が面白そうだったからな」
「意味がわからねぇが……まあ
理解を放棄した様子でイオが背もたれに身体を預けると、リルが盆にのった焼き菓子を持ってくる。
イオ達が暮らしているのはガレフォンでも中央に近いいわゆる一等地というやつで、屋敷の中もなかなかに広い。
Aランクの冒険者をしているという話だったが……高ランク冒険者が稼げるというのは本当のようだ。
「リルはなんで攫われたんだ?」
「……簡単に言えば、俺が下手を打ったからだ。トラッドファミリー相手の仕事を断り続けてたから、その報復だな」
マフィアは自分達の面子を汚されることを何より嫌うという。
俺も戦いを生業としていた以上、理屈は理解できる。
たしかに、暴力を生業とするなら看板が必要だ。
ただ弱者を倒せるだけでは二流。
本当の強者は、今までの戦績や功績で相手を黙らせることができる者のことを言う。
「俺は汚れ仕事は受けねぇし、ろくでもねぇやつらと付き合うつもりなんかそもそもねぇ。だが俺の下らない矜持のせいで、リルを危険に晒しちまった……」
イオが悔しそうな顔をしながら、机に拳を叩きつける。
俺は机の上に乗っている焼き菓子をむんずと掴むと、そのまま一気に口の中に入れる。
単に砂糖をぶち込んだだけのものとは違う、どことなく上品で優しい甘さが口いっぱいに広がった。
「それならどうするんだ?」
「……受けるしかねぇさ。この街で暮らしていこうとするなら、トラッドファミリーには逆らえねぇ」
口振りから察するに、どうやら本気で言っているらしい。
これほどの男がこの街にこだわる理由が、何かあるのだろうか?
「リルの病気の症状の進行を止めるためには、薬師カーラの薬が必要なんだ。だからあのばあさんの暮らしてる村からは離れられねぇ」
リルの病気は『魔晶病』といい、全身が徐々に魔力の籠もった水晶である魔晶に変化するという奇病らしい。
なるほど、妹の病気のために街を離れられないということか。
だがやはり……イオの態度はおかしい。というか、おかしすぎる。
フッと鼻から息を吐き出すと、胸ぐらを掴まれた。
「何がおかしい!?」
「いや、どこからどう考えてもおかしいだろう。強さが正義だというのなら、正義はお前にある」
この世界にはしがらみが多い。
そこまで物を見たわけではないが、どうやら純粋な強さだけではどうにもならないことも多そうだ。
だが圧倒的な力は全てを解決する。
相手が力を使おうとするのなら、それをねじ伏せる圧倒的な力で返してやればいいだけの話だ。
「黙って従えば、その分だけお前は侮られる。ならば答えは一つだ。舐めた真似をしたトラッドファミリーに、お前の力をわからせてやればいい。タイミング的にはちょうどいいから、俺も行かせてもらおう」
さっきトラッドファミリーに喧嘩売ってきたところだったからな。
そう告げると、イオは呆けて口を大きく開いていた。
すごい間抜け面をしている。
「お、お前……」
「リルが心配なら、俺の仲間と引き合わせよう。あいつに預けたら、そのままカチコミに行くぞ」
「……イカれてやがる」
俺からすれば、おかしいのはこの世界の方だ。
だから――正してやろうじゃないか。
俺はそのまま集合場所で待っていたミーシャにリルを押しつけ、イオと二人でもう一度スラムに戻ることにした。
さぁて、骨のある兄貴達が集まってくれてるといいんだがな。
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