第16話
燃えるような赤い髪をした男が、腰をわずかに下げながら柄に手をかける。
注視していなければ見落としてしまうほどのわずかな変化。
けれどそれによって起こった変化は劇的だ。
「ほう……」
あちらの身体から発される闘気が俺のことを撫でつけていく。
ピリリと肌を刺激するその感覚に、思わず骨に握る力を強める。
俺はあわあわしながら何かを言おうとしているリルのことを視線で黙らせてから前に出た。
「――遅えっ!」
瞬間、感じる悪寒。
跳ねるように逆制動、後方へ飛ぶ。
だが斬撃をかわしきれず、頬が浅く裂かれる。
つつ……と流れる赤い血に、闘争心が刺激される。
男が持つ剣は両手でも持てるサイズになっているブロードソード。
刀身はキラリと薄い青色の光を放っており、特殊な素材で作られていることが一目でわかった。
「フフッ、速いな」
「――なんだ、お前はッ!」
更に前に出ると、男は果敢に応戦してきた。
前後左右、縦横無尽に振るわれる剣に対し、俺は背骨を大ぶりに振っていく。
視覚拡張を使えば後方からの攻撃にもしっかりと対応することが可能だ。
剣と骨を打ち合わせてみれば、どちらも欠ける様子がない。
Aランクの魔物の骨とぶつかってもヒビ一つ入らないところを見ると、男が持っているのもかなりの業物なのだろう。
あちらの剣は、こちらと比べればはるかに速い。
だがその分一撃は軽い。
これなら多少肌を裂かれる程度で済む。
対しこちらは、デカいのを一撃入れられればそれでいい。
それならば今必要なのは待ちだ。
(勘もかなりいいな……引っかからないか)
フェイントを交え、虚実入り交じった攻撃を繰り返すが相手の方はしっかりとこちらの思惑を読み切ってくる。
狙うは攻撃と攻撃の継ぎ目、相手の呼吸を読み、連撃が終わったタイミングで背骨を前に出した。
「ごふっ!!」
突き出した骨に吹っ飛ばされた男が、壁に叩きつけられる。
その姿はもくもくと上がる砂煙に隠れて見えないが……。
「しっかりと受け身をとってるのを見たし、大してダメージは入ってないんだろ?」
「こいつ……なんつぅ化け物だ……」
現れた男は、腹部の鎧に穴こそ空いているものの、その闘争心にはいささかの衰えもない。 むしろ一撃をもらったことで、警戒を更に引き上げている。
「……チッ、市街地だからなるべく使いたくはなかったが、こうなりゃ仕方ねぇ……火剣サラマンドラ」
男がそう口にした瞬間、視界が一瞬のうちに明るくなった。
煌々と照らされている一本の剣。
青い刀身の上にまるで鞘を被せるかのように白色の炎が展開されていた。
刀身に沿う形で火魔法を展開しているのか。
あれは……ヤバいな。
内側に内包している破壊力を見て、思わず冷や汗が出てくる。
だが同時に楽しんでいる自分もいる。
あの一撃をしのぎきったらそのまま……と考えたところで、無粋な音に顔をしかめる。
俺は剣を下げると、そのままこちらに向かってきそうな男に対して告げた。
「今日はここまでだ。衛兵が来るからな」
「はっ!?」
聴覚拡張が、遠くから駆け寄ってくる複数の足音を捉えている。
恐らくは騒ぎを聞きつけて、衛兵達が出張ってきたのだろう。
彼らには捕まるなとミーシャから散々言われているからな。
残念ながらこの続きは、後のお楽しみということにしておこう。
「リル、逃げ道を案内してくれ」
「は、はいっ!!」
男の剣から光が消えると同時に、リルが男の方へ駆け出す。
そのまま三人で衛兵から逃げるために走り出した。
「な、なんなんだ……?」
首を傾げながらも、とりあえずリルについていく男と併走をする。
これが俺と現在ガレフォンで最もSランクに近いとされている冒険者、『火剣』のイオとの出会いだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます