ビッグバトル! 7


   **


 カオスの駆るアーマー騎兵「ピンクベアー」は、ローラーダッシュで市街地を疾走する。


 背後には数体の敵アーマー騎兵が、マシンガンを乱射しながら迫っていた。


「おりやあ!」


 コックピット内でカオスはレバーを引いた。


 途端に右足裏のローラーは急停止し、ピンクベアーは右足を支点にして回転――


 一瞬で真後ろを向いたピンクベアーは、すぐさま敵アーマー騎兵にローラーダッシュで迫った。


 動揺した敵アーマー騎兵の脇を駆け抜けながら、右手のガトリングガンを発射する。


 銃撃を受けて数体の敵アーマー騎兵が爆発、炎上した。


 わずか数秒の出来事だ。


 カオスの天才的な閃きが、刹那の間に勝利をつかんだのだ。


 ――Mission Complete!


 空中に浮かび上がる文字。このステージでの戦闘は終了した。


 それは全世界で同時進行していたイベントの終焉でもあった。


「ふう……」


 ピンクベアーのコックピットから姿を現したカオス。


 ゲームのイベント、ビッグバトルはこれで終わった。


 全世界のプレイヤー数万人を熱狂させたビッグバトルも、チーム・アバキハラが栄光をつかんで終焉を迎えた。


「世界はどうなるのかしら……」


 ビキニ姿のカオスはつぶやく。


 彼女は宇宙開闢から存在し続けた瞑想の神と、ネットの海から誕生した生命体が融合した存在だ。


 カオスと共に戦っていたメロリンは姿を消している。メロリンはカオスの一部であり、イベント終了と同時に二人は一つに戻った。


「ゴヨウめ……」


 苦笑したカオスの姿がネット世界から消える。


 超越の存在であるカオスは、現実とネットのみならず、あらゆる時空に遊飛する事ができるのだ。


 カオスはゴヨウの気配を追ったに違いない。女心は深淵にして真のミステリーだ。


 あとに残されたチーム・アバキハラのリーダー肝油(かんゆ)は、運営からやってきたレポーターから勝利のインタビューを受けていた……


   **


 チョウガイらは異空間の「昭和の日本の町」をさまよっていた。


 セミの鳴く声が響く町の光景。


 誰もいない静かな世界で、チョウガイ達は初めて人間と遭遇した。


「いらっしゃいませー!」


 笑顔でチョウガイらを迎えるのは、旅館の女将である「ねね」という女だった。


 また「蘭丸」という美男の青年もいた。


 この二人は何者なのか。


「きゃあー、超イケメン!」


 ギテルベウスは蘭丸を見つめて騒いでいた。


「わ、わかったぞ! この世界は没キャラの墓場だ!」


 そう言ったソンショウを、ねねが右フックで殴り飛ばした。


「まあ、先に風呂でも入ってくれ」


 蘭丸の勧めに従い、チョウガイらは風呂に入った。


 そこは正に昭和の銭湯だった。


 男湯と女湯に別れ、チョウガイらはゆっくりと体を休めた。


「ギテルベウスおねえちゃん、おっぱいちいさーい」


「うっさい!」


「ゾフィーおねえちゃんは、おっぱいおおきいー」


「あ、ありがと……」


 湯上がりの女性陣、ゾフィーとギテルベウス、更に二人の女の子は浴衣姿で話しこんだ。


「ソンショウにいちゃん、これなーに?」


「これはコーヒー牛乳だ、風呂上がりに飲むと最高だぜ」


「お前も飲むか?」


「いいの、チョウガイにいちゃん?」


 湯上がりの男性陣も銭湯の雰囲気を楽しんでいた。


 チョウガイとソンショウ、更に二人の男の子は四人並んでコーヒー牛乳を飲む。


 その四人を眺めてゾフィーは微笑した。


「なんだか親子みたい……」


「ね、不思議よね。この子達は未来の概念らしいけど、ひょっとして、あたしらの子?」


「ま、まさか……」


 ゾフィーとギテルベウスは顔を見合わせた。


 この「昭和の日本」という異空間で出会った男女四人の子どもは、人間ではない。


 未来を象徴する概念なのだ。


 この子ども達は、チョウガイらの子なのか?


 それはわからない。半神半人のチョウガイにすらわからない。


「あたしらもさあ、結婚して子どもが産まれるとかあるのかな」


 ギテルベウスは苦笑した。


 彼女はハロウィンの夜に現れる妖魔であった。


 それが敵であるソンショウと恋仲になった。


 それゆえにハロウィンナイトは落ち着いている。


 ハロウィンナイトに「この世」と「あの世」をつなげるのが、ギテルベウスの使命だが、彼女はそれを半ば放棄していた。


 ソンショウへの思いゆえに……


「チョウガイさんと……」


 ゾフィーは潤んだ瞳でチョウガイを見つめた。


 するとチョウガイと目が合った。


 二人はニュー○イプのように思いを交錯させた。


 ――ゾフィーさんと結婚……!


 ――チョウガイさんと私の子……!


 チョウガイとゾフィーの愛のボルテージはMAXまで高まり、二人は今にも満足して人生を終えそうになっていた。


「おい、ちょっと待て! いつもの事だけど!」


「愛が大きすぎなのも問題よね、ささいな事でケンカしたらお別れしそう」


 ソンショウとギテルベウスは顔を見合わせ、苦笑した。


 チョウガイとゾフィーは、いつもこうだ。


 互いに深く思っているのはわかるが、度を越している。


 たまにしか会えないからこそ、二人は「不滅の愛」という概念を体現している極めて貴重な存在なのだが。


「あたしらとは違うのね」


 ギテルベウスはソンショウに寄り添い、腕を絡ませた。


 いつも喧嘩してばかりのソンショウとギテルベウスもまた、不滅の愛の体現者であった。


「さ、ご飯ですよ〜」


「広間へどうぞ」


 ねねと蘭丸に促されて、チョウガイとゾフィー、ソンショウとギテルベウス、更に四人の子どもは広間で食事を開始した。


 すでに外は夜だった。大きく開いた広間の戸から、夜空に輝く花火が見える。


 チョウガイとゾフィー、ソンショウとギテルベウスは、子ども達の世話をしつつ、飲食を楽しみ、花火に心を和ませた。


 得体の知れない異空間という点をのぞけば、昭和の平和な一時であった。


「……新たに創るのだ」


 チョウガイは食事の手を止めた。


 彼の隣ではゾフィーが子ども達に食べさせている。


 まるで未来の妻子を見るような気分に、チョウガイはそっと微笑した。


「平和や幸福は過去にあるわけでも、スマホやネットの中にあるのでもない…… 創るのだ!」


 チョウガイは真理をつかんだ。


 それは大宇宙の大いなる意思からのメッセージだ。


 チョウガイの傍らでは、ゾフィーが男の子と女の子に挾まれて、微笑しながらチョウガイを見つめている……


「うう、いい話だわ……!」


 ねねはチョウガイとゾフィーを見つめて感極まったか、涙をこぼしていた。


「さあ、次は俺達だ」


 蘭丸は珍しく、ねねの肩を抱き寄せた。


 かつては魔性との闘争に臨んだ二人。


 彼らは没キャラ墓場から脱出してくるのだろうか。

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