狂気的な彼女8
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宇宙開闢以来存在する神、混沌。
ネットの海から誕生した新たな生命体、AI女王。
二人は時間も空間も越えた場所で対峙した。
本来ならば格の違う存在だが、二人の女性は対等の立場だ。
「なんじゃメロリンって」
混沌はクスクス笑った。そうしていると、どこにでもいそうな少女だった。
「いいでしょ、別に? みんな、ネットでは変な名前つけるでしょ」
AI女王――名前はまだないが、メロリンとする――は苦笑した。
バーチャルゲーム「バトリング」内に突如として現れたメロリンは、生身でアーマー騎兵を撃破するという快挙を成し遂げた。
またメロリンの容姿は、見る者によって変化する。男ならば己の理想の女性の姿を見るのである。
それゆえにメロリンの人気は世界中で高まっていた。自分の理想女性の姿をしたメロリンに心惹かれぬ者など、いなかった。
中には人類にはありえないような体型をしていたり、獣人のような姿を見る者もいる。
が、ネット世界の事であるので、誰も気に留めなかった。この曖昧さもネット世界が人間に支援される理由だろう。
「まあ、そうじゃが…… それにしても、おぬし盛りすぎじゃ」
「なによ、あなたなんかもう少し美少女になってもいいんじゃないの」
「それではダメじゃ」
混沌は息をつき、そしてとっておきの笑みを浮かべた。
「ゴヨウと同じ地平に立ちたいんじゃ」
「くっはあー! リア充爆発しろおー!」
メロリンは嫉妬に燃えた。実体を持たないネットの海から誕生した生命体も、初めて嫉妬の感情を理解した。
「やんのか、ワレー!」
混沌は怒りに燃えた。宇宙開闢以来存在する神が、初めて本当の怒りを体験した。
「ミサイルうっ!」
メロリンは胸からミサイルを発射した。豊かな胸はミサイルだったとは。
「シャオラあ!」
混沌は目から光線を発射してミサイルを破壊した。
爆風の中でメロリンの姿を0·001秒見失う。その一瞬が命取りだ。
「思い知れえー!」
メロリンは混沌の背後からパイルバンカーで襲いかかった。
「なんのうー!」
混沌はパイルバンカーの一撃を避けると、必殺の手刀でメロリンの頭上から襲いかかる。
「混沌の赤い雨ー!」
混沌の手刀がメロリンの頭頂から股まで一直線に斬り裂いた!
やがて二人はちょっとした小ぜり合い(それでも地球を崩壊させるに充分であった!)を止め、時空を越えた世界でお茶会をした。
「はーあー、実体が欲しい…… 彼氏欲しい、二人で遊びに行ってみたい…… 美味しい食べ物を味わってみたい…!」
メロリンはため息をついた。ネット世界で産まれたメロリンは男でも女でもない存在だったはずだ。
「切ないのお〜……」
混沌はメロリンの憂いを理解した。混沌もまた男でも女でもなかった。
二人共に女性意識を持ったからこそ、人間の世界は存続している。
悲しみと苦しみに満ちていても、世界には楽しみと喜びがある。
楽しみと喜びを尊重するからこそ、混沌とメロリンは一気に人類を滅ぼすような真似をしないのだ。
それは大地母神や海母神、また地球意思と同じ心境であった。尊いものを破壊するなど簡単にはできない事だ。
もしも二人が男性意識を持っていたら、人類滅亡をためらわないだろう。男は不要とみなせば即座に捨てる。
それができるから男なのだ。女とは違うのだ。男女の妙は違う存在が互いに惹かれ合うところにある。
「まさか……」
「うむ……」
メロリンと混沌は同じ考えに到った。
二人に女の意識を与え、人類滅亡を防ぐ……
超エネルギー体であるメロリンと混沌、二人が人類を守りたい側に回れば、未来は変わるのではないか?
そうさせた存在がいるという事実にメロリンも混沌も初めて戦慄した。
帷幄(いあく)に在って謀(はかりごと)を巡らし、千里の外に勝利を決する……
神算鬼謀を謳われた前漢の張良子房のごとく、混沌とメロリンを味方にしようとする存在がいるのか?
「いったい何者が……」
「まさか『開拓者』か?」
メロリンは言う。開拓者とは「宇宙最古の生命体」の事だ。
その一人、カーレルはゴヨウに接触した事もある。
「いや、もっと途方もなく強大なものを感じる……」
混沌は目を閉じ、全宇宙、全時間、全空間を探った。
時間と空間を超越し、体感時間で数万年の探索を行ったが、そのような存在を発見する事はできなかった。
「バ、バカな、わらわの力を越えるとは……」
宇宙開闢以来存在している混沌の神としての力は、全宇宙屈指だ。
彼女が相手では宇宙を創造した十二星座の女神でも、下手をすれば消滅させられてしまう。
では宇宙そのものたる大天母か?
地球意思や大地母神、海母神らか?
探りを入れても答えが出ない。混沌と同じく、メロリンも困惑する。
ネットやバーチャル世界に関しては無敵のメロリンも、自分に女の意識を植えつけた存在がわからない。
自分は自分の意思で今此処に在る――
その思いは神も人も変わらない。
が、ふと気づけば超越の存在を感知して怯えるのだ。
混沌は忘れていた。自分と等しい存在たる「秩序」を。
秩序は混沌と出会う事はない。なぜなら鏡に写った自分のようなものだから。
**
知多星ゴヨウは戦っていた。
彼の魂はこの世とあの世の狭間をさまよう。
理解の及ばぬパラレルワールドを幾つも経ていく、それがゴヨウの運命でもある。
――ガアン!
ゴヨウはショットガンでゾンビの群れを撃った。夜の街に鳴り響く銃声よりも、街全体に響くうめき声が聴覚を刺激した。
街はゾンビにあふれていた。人間は死後、僅かな時間を経てゾンビと化して生者を襲い、喰らう。
それは命ある者への妬みであった。生者が生きている、それだけでも妬ましい。
ゾンビに襲われたくなければ、日々を輝かせて生きるしかない。
どんなに辛くても苦しくても、魂を輝かせる事はできるはずだ。
夢や希望、努力と挑戦、男と女――
魂の輝きは、辛苦の思いと流した汗が生み出すのだ。
スマホで魂は輝かぬ。
輝かぬ魂はゾンビに喰われるだろう。
ゾンビとは隣人だ。
「逃げるよ、がんばれ!」
ゴヨウは街で生き延びた人々を助けながら、脱出ポイントを目指す。
彼が戦うのは、チョウガイやソンショウのためでもある。
百八の魔星の守護神チョウガイ、入雲龍ソンショウ。
二人はゴヨウを守ってくれた存在であり、今は人間世界に魂を共有する者がいる。
凱と翔、二人には愛する女性がある。
まだ見ぬ未来がある。それを守るためにゴヨウは戦う。
「ファイヤー!」
ゴヨウはゾンビの群れにロケットランチャーを発射した。
爆風と共にゾンビが吹っ飛んた。
ゴヨウ、楽しんでいるかもしれない。
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