アタナトス彗星
織田なすけ
一、かつての何も知らない僕へ
かつての何も知らない僕へ。
九歳の好奇心旺盛な幼い君は、初めての旅館に興奮して眠れず、一人抜け出して山を登るだろう。怯えながらも、小さな懐中電灯を片手に携え、真っ暗な世界を体験するだろう。下草に足を取られ、枝葉が立ち塞がる。そんな
そして、いずれ、長らく放置された、いつ壊れても不思議ではない古寂れた展望台を発見する。
君は、君にとっての未知の世界を前にして、胸を躍らせるに違いない。完全な暗闇、生い茂る緑、手付かずの廃墟、煌びやかな星空……都会に住む人間には、何もかも新鮮だろう。夏休みの思い出としては、最高品質である。
しかし、僕という人間が振り返ると、決まって最悪の出来事として思い出すのだ。だから、もし過去に戻って伝えられるものならば、伝えたい。
如何に美しかろうと、どれだけ写真に残したくとも、深く心を打たれようと、『絶対に眺めるな』と。
だが……長い蒼白の尾を引く、彼方からの巨大な流れ者。
何故ならば、僕は百年経った今もなお、魅了されているからだ。
あの天体――〝アタナトス彗星〟に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます