第10話 ジャスミン

 ようやく暖かい日差しがガラス越しに指すようになったドアを開けてテラスに出ると、ジャスミンの花が絨毯のように散って広がって真っ白になっていました。香りを放った毎日が終わりに近づいています。

 今年で何年になるのか、10年は経ってないと思うけれどもう長い間、毎年春になると華々しい香りを楽しませてもらっています。我が家の小さな花壇から立ち上がったツルが二階のテラスまで絡まって何本もの手を伸ばし、南に面した西側の掃き出し窓二面分覆って夏は日陰を作ってくれます。

 春は花、夏は日陰、秋には伸びたツルでリースを作ります。冬は静かに冬ごもり…また春が来ると濃いローズ色の花芽を出して季節の移ろいを楽しませてくれています。枯れない。ホントに有り難い植物です。

 ジャスミンと聞くと私達世代はアンリの「オリビアを聴きながら」を思い出すでしょうか、ジャスミンティーを飲みたくなります。今の子ならデズニーの「アラジン」の妖艶なプリンスを思い起こすでしょうか。世代によって感じるものは違うものです。

 この花をどうにかお茶に出来ないかと試みた年もありました。でも繊細な真っ白い花が色褪せてしまうので止めておきました。でもきっと誰かが何処かで作っているのだろうな〜この香りを閉じ込めてお茶にしようと思いついた人は素敵です。

 ちなみにお水の中に落ちると花びらは透明な感じになってフワフワ浮いています。樹の下のメダカが何匹も死んでしまったので、もしや毒性があるのかと疑いもしたのですが今のところ判明してはいません。

 ハゴロモジャスミン、エカテリーナジャスミン、カロライナジャスミン、マダガスカルジャスミンなど花の種類によっては全体、蜜、などに毒性のあるものもあるようです。我が家のジャスミンはおのれ生えで何処かから飛んできた花なのでどのジャスミンか見当が付きませんが、今のところ事故もなく多分大丈夫と思っています。

 手入れの要らない。毎年枝全体に白い花を咲かせるジャスミンは、春を香りで伝えるまたとない存在感を放つ植物です。

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