最高神の候補生!

田無 竜

一章 神候補生の天使たち

読む必要のない独り言

 一つ、質問をしよう。


『もし貴方の目の前で誰か見知らぬ他人が倒れたとしたら、貴方は一体どのような対応をするだろう?』


 倒れ込んだ彼の傍に寄り、聖母のように優しく声を掛けるのだろうか?

 あるいはその前に救急通報をして、己より甲斐性のある助けを呼ぶのだろうか?

 それとも……倒れた彼を無視してそのまま見て見ぬ振りをするのだろうか?


 まあこの質問の答えは人によって千差万別といったところだろう。

 どうせ、『その時にならなければ分からない』……。

 周囲に自分より先に助けに動く人間がいるかもしれないし、動揺して頭が真っ白になって立ち尽くすかもしれない。

 そうだな、もう少し答えやすい質問に変えようか。

 こうしよう。


『もし、貴方の目の前で貴方の愛する人間が倒れ、周りには貴方しかおらず、既に倒れた相手に声を掛けた後で、今から救急通報をすれば確実に助かると判断出来ている状態になった時……貴方はその通報のボタンを押し、その人物を助けようとするだろうか?』


 答えは言われずとも分かる。

 当然だ。

 何故ならこの場合、貴方が倒れた人物を『助けない』メリットが無い。

 人間はいつだって損益を秤に掛けて行動を選択する。

 貴方が仮に『助ける』選択をしたとしても、この質問の場合貴方が善意を振りかざしたことになるとは限らない。

 メリットが無いから『助けない』選択をしないというだけになるのだ。


 では次に、今の質問に対する僕なりの答えを述べようか。

 僕の答えは──────『助けない』。

 だって、その方が愉快だろう?

 僕に声を掛けられて安心した僕の愛する人物は、僕に裏切られて結局死ぬことになる。

 そんな時一体その人物はどんな表情をするだろう?

 それを考えるだけで愉快で仕方ない。貴方だって少しはそんな想像したんじゃないか?

 愛する者の絶望する表情を想像したことがない人間はいないだろう。

 そしてそれを愉快だと思う人間はこの広い世の中には無数にいるはずだ。

 僕もその一人だった。

 貴方がそれを悪だと断ずるのは容易いだろうが、それでは僕を非難する貴方は果たして善か?


 ……馬鹿馬鹿しい。

 損益の秤など関係ない。

 『助ける』という選択をした貴方はそれだけで充分『善』じゃないか。

 下らない話をして悪かった。

 そうだ。悪いのは僕だ。

 僕だけが悪いんじゃないか。

 僕だけが悪で、僕だけが邪な存在なんだ。


 ……なんて。

 今更自虐することに意味は無い。

 最後の質問をしよう。


『もし貴方がこの世で誰よりも嫌っていて、何度も殺人などの犯罪を犯したことがあり、実際貴方の身内にも手を掛けたことがある、そんな忌々しい人物が倒れ込み、もう助からないとしか思えない状況で、おまけに周囲にはその人物を助けようとする別の誰かがいたとして……貴方はそれでもその人物を助けようとするだろうか?』


 答えはまあ、どうでもいい。

 とにかく僕はそんな質問に対して即答で『助ける』と答えた『アイツ』が心の底から大嫌いなんだ。

 中には『アイツ』を天使や聖人のように表現する者もいるのかもしれないが、そんな言葉で片付くような奴じゃないんだ。

 優しさや善意などじゃない。どう考えたって『アイツ』はイカレている。

 ただそれだけだ。それだけなのに、どうして僕じゃなくてアイツが……。

 ……とにかく僕は、『アイツ』が嫌いだ。

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