第17話

「近藤、悪かったな?」


 表彰式が終わり、英司とリーナには先に戻るように伝えた蓮が近藤にそう告げる。


「何がだよ?」

「本当はお前達だって『奈落』攻略に行きたかったんだろ?」

「……知っていたのか?」

「いや、なんとなくだ」

「なんだそれ」


 そう言いながら笑う近藤を、蓮と蒼衣はまっすぐ見つめる。


「お前達は天川達と違って、英司のことを本気で心配していたからな」

「……まぁな、普通はするだろ?」

「で、俺達が『奈落』に行くのを防ぐために、お前達は優勝を目指した」

「紅竜の呪いを解くために、俺達にできることをやろうと思っただけだ」

「にしては不器用すぎるだろ? わざと、俺達に酷い態度をとったりしてよ」


 蒼衣がそう言うと、近藤は目を背けながら「うるせぇよ」と悪態をつく。

 近藤達は表でこそ、蓮達に酷い態度を取っていたが、裏では何かと手助けしてくれており、それはこの世界に召喚されてからも変わらなかった。


「尾形には、あっちの世界にいた時に世話になったからな」

「そうそう、ツンデレ近藤だけでなく、俺達もアイツに助けてもらったんだよな」

「おい! 誰がツンデレだ!」


 チームメイトの冗談に、近藤が憤慨するも、すぐに冷静になり、二人の方へ向き直る。


「まぁ結局、お前達が勝ったから、俺達は『奈落』に行けないがな」

「そんなことはないぞ」

「は?」

「おそらくだが、お前達も『奈落』攻略に参加することになるぜ」

「いや、でも追加メンバーは優勝したチームのはずだろ?」


 近藤が疑問の表情を浮かべていると、ゴートを連れて、バイゼルがこちらに近づいて来るのが見えた。


「いい試合を見せてもらったぜ!」

「王様……一応、他の奴らもいるんだから、口調はどうにかしろよ……」

「お前らが素で話しているのだ、なら問題あるまい」


 蓮の指摘を突っぱね、豪快に笑うバイゼル。


「え……なんで国王様がここに……?」

「岩本たちも、なんでそんなに平然としているんだよ……?」


 その姿に、近藤達が口をあんぐりと開ける中、バイゼルは気にせずに話し始める。


「お前らが決勝で蓮達と戦ったチームだな?」

「は、はい!」

「お前達も『奈落』攻略の追加メンバーに選ばれたからよろしくな!」

『……え?』


 バイゼルの言葉に、近藤達は揃って首を傾げる。


「いやー、攻略の追加メンバーが二人だと流石に少ないと思ってな、お前達なら実力も申し分ないから特例で選出させてもらった!」

「……マジですか?」

「マジだ!」


 未だに呆然としている近藤達を置き去りに、バイゼルは「じゃあ、また今度な!」と告げると、ゴートを連れ、その場から去って行った。


「おーい、お前ら、大丈夫か?」

「いや、大丈夫だと思うか……?」

「国王様のイメージ、一気に変わったな……」

「まぁ、そこは慣れればいいさ」

「無理だろ……」


 そう言うと、疲れが来たのか、「一旦、部屋で休んでくる」と告げ、近藤達もその場から去って行った。

 その後ろ姿を眺めながら、二人は小さくため息をつく。


「ようやく、一歩前進だな」

「あぁ、信頼できる味方近藤達も出来た。後は、紅竜を倒すだけだな」

「簡単に言ってるが、絶対にしんどいよな~」

「まぁ、今より弱かったとはいえ、天川達が負けているもんな」


 まだ見ぬ敵に、内心怯えながらも、その顔に不敵な笑みを浮かべる。


「けど、負けるつもりはないぜ」

「当然だろ、俺達が求めているのは、勝利だけだ」

「まぁ、今は時間の許す限り、訓練に励むしか出来ないけどな」

「だな、ゴートは何か言ってたか?」

「いや、特に」

「なら、とりあえず、いつもの訓練場に行くか」


 相談した結果、訓練をすることにした二人は、軽く話をしながら、いつも使っている訓練場に足を運ぶと、


「ふふっ、やっぱり来ましたね、お二人とも」


 怖くなるほど綺麗な笑みを浮かべたソフィアが入り口に立っていた。


「「げっ……」」

「か弱い乙女に対し、魔王に遭遇したかのような目を向けるなんて、酷いですね」

「いや、俺達からしたら魔王より魔王だよ……」

「ふふっ、では、覚悟はいいですね?」


 そう言いながら、ソフィアが取り出すのは、どこにでもあるロープだった。


「今日ぐらいは休むかな~、って期待していましたが、二人とも当たり前のように訓練しようとするから、拘束するしかありませんね」

「くそっ、逃げるぞ!」

「ベッドに縫い付けられるのは、もう御免だ!」


 蓮は『身体強化』を、蒼衣は『敏捷向上』を発動し、その場からの逃走を図るも……


「逃がしませんよ~」


 ソフィアの言葉と共に、ロープが意志を持っているかのように、二人を追尾する。


「あの魔道具、反則過ぎるだろ!」


 魔道具と言う、魔法を簡単に発動できる道具のことを思い出しながら、二人は全力で逃げ惑う。


「自動追尾が付与されているんだろうが、この精度はおかしいんだよ!」

「ふふっ、これでも顔が利く方なので、ある方から特別な物を頂いたんですよ」


 笑みを浮かべながら、意気揚々とロープを振り回すソフィア。


 そして……


「くそっ! やっぱり、捕まったか!」

「離せー!」

「はいはい、続きは医務室で聞きますからね~」


 その後、捕獲された二人はロープを巻かれたまま医務室まで引きずられ、ベッドで強制的に休むよう命令されるのだった。

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