第15話

『は……?』


 その光景に選手だけでなく多くの観客の驚愕の声が響く。


「え、今、何をした?」

「真銘魔法を、切った……?」

「そ、そんなこと、できるの!?」

「いや、できるわけないだろ!?」


 少しの間、静寂が訪れたかと思うと、ようやく目の前の光景を現実だと認識した観客たちが狼狽の声を上げる。


「別に、そこまで驚くことでもないんだけどな」

「だな、ゴートだったら、わざわざ構えなくても『切れる』しな」


 それに対し、二人は「出来て、当然」と言わんばかりの顔で相手チームを見る。


「う、嘘だ! ただの斬撃で真銘魔法を切るなんて!」

「く、くそっ! 一体、何をした!?」


 観客と同じように、動揺を見せる相手チームの選手の問いかけに、二人は首を傾げる。


「何って、見たとおりだろ?」

「驚くぐらいだったら、他の奴らも真銘魔法を撃ったらどうだ?」


 そう言いながら構える二人に、相手チームの選手たちは各々の真銘魔法を放つ。


「くっ、全員! やれ!」

「 【水の竜砲】アクアブレス! 」

「 【落城の嵐刃】キャッスル・ストーム! 」

「 【震岩の一槍】ランドスピア! 」


 リーダーの号令と共に、複数の真銘魔法が一斉に放たれるが……


「ハッ!」


 一閃。


 先ほどと同じように切り裂かれた魔法を空中で霧散させ、仁王立ちする二人に相手チームの戦意は完璧に砕けてしまった。


「こ、降参します!」

「わ、私も!」

「俺も!」


 そして、一人の言葉を皮切りに、相手チームの全員が降参を宣言した。


「そこまで! 勝者、星野チーム!」

『……』


 ゴートが試合終了を告げるも、これまでの試合のように観客席から歓声は上がることはない。


「あー、まぁ、予想通りだね……」

「圧倒的な力は、時として、恐怖の対象になってしまうからね」


 拍手を送りながら、英司とリーナがそう呟いていると、


「おい、尾形! アレは何だ!?」

「あ、アレって何のこと?」

「とぼけるな! 岩本が真銘魔法を切ったアレは何だ!」

「み、見たまま、としか……」


 鬼の形相で詰め寄る天川に、英司が身を引きながらも答えるが


「嘘をつくな! 真銘魔法を切るなんて、僕達でも出来ないんだぞ!」

「そうだ! あんな陰キャに出来るわけがない!」

「説明しろよ!」


 当然、そんな説明では納得するはずもなく、天川達、攻略部隊はさらに距離を詰める。


「そ、そう言われても、説明はできないよ!」

「嘘をつくな! どうせ、卑怯な手を使ったんだろ!」


 天川が胸ぐらを掴みながら、そう告げた、次の瞬間


「……は?」

『ッ!?』


 天川達にとてつもない重圧がのしかかり、全員が思わず膝をつく。


「今、何て言った?」


 目を細め、声を低くしながら、問いかける英司に天川達は冷や汗を流す。


(な、なんだよ、これ!?)

(体が、無意識に怯えている……?)

(怖い、怖いよ……!)


 多くの者が心の中で、悲鳴を上げる中、唯一、天川だけは英司を睨みつける。


「だから、卑怯な手、を!?」


 そして、先ほどと同じことを告げようとするが、途中で、さらに強くなった重圧に、思わず口を閉ざす。


「へぇ、何の根拠もないのに、よくそんなことを言えるね?」

「だ、だって、そうじゃないと、僕達より強くなれるわけが……」

「何? 天川君達は、自分達が一番強いとか思ってるの?」

「ウッ……!」


 視線だけで人殺せるのでは、と思わせるほど、その瞳に怒りを滲ませる英司。

 重圧に耐えきれなくなった者が、次々と意識を失う中、英司は静かに口を開く。


「前も見たよね? 二人は『殺し合い』をしていたんだよ?」

「そ、それだけで強くなるわけが……!」

「一度も経験していないくせに、よく言えるよ」

「なっ、僕達だって、あの紅竜と『殺し合い』をしたんだ! ふざけるな!」

「……本当にそう思っているなら、ある意味大物ですね」


 天川がそう告げると、今度はリーナが軽蔑の眼差しで天川達を見つめる。


「英司と違い、すぐに逃げた貴方達が『殺し合い』を経験していると?」


 ありえない、とリーナは首を振る。


「だ、だって、そうでもしないと、僕達は死んでいたんだ!」

「では、死なない保証があれば、紅竜と戦っていたと?」

「当然だ!」

「ふざけないでください!」

『ッ!?』


 リーナらしからぬ声を荒げる姿に、天川達が驚くが、リーナは気にせず続ける。


「死なない保証がある戦いなんて、『殺し合い』ではありません! 生きるか死ぬか、それが『殺し合い』なのです!」


 リーナの凄まじい剣幕に、天川達が何も言えないでいると、


「おいおい、英司に王女様も、そんな怖い顔をしてどうしたんだよ?」

「ん? 天川達が膝をついている、って……どういうことだ?」


 戻ってきた蓮と蒼衣が眼前の光景に首を傾げる。


「ごめんごめん、少し、天川君達とお話をしていただけだよ」

「えぇ、ですよね?」


 重圧から解放された天川達は、リーナの問いかけに首を激しく縦に振る。


「ふーん、ならいいか」

「そうだな、俺達も残ったチームの戦力をもう一度、分析しておきたかったからな」


 それを見た二人は、すぐに切り替え、敵チームの情報を整理する。

 未だ、呆然とする天川達に英司は告げる。


「天川君達がどう思うかは知らないけど、二人のあの姿を見て、まだ卑怯な手を使っている、と思っているなら、今度は僕も容赦しないよ」

「ふふっ、そうですね、今度は父にも協力してもらいましょうか」


 それに続き、恐ろしいことを口にするリーナに、天川達は顔を青ざめる。


「用がないなら、早く、この場から立ち去ってくれないかな?」

「……ッ! 皆、行こう……」


 悔しそうに顔を歪めながら、天川達はその場から去って行った。


「さ、僕達も二人の分析を手伝おうか」

「だね!」


 互いに微笑みながら、英司とリーナは今も集中して意見を交換する二人のもとへ戻るのだった。

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