第39話 六十三日目 2

 佐藤と高橋の押し問答をどこか熱い眼差しで眺めている一対の瞳があった。

 その瞳の持ち主の名前は一ノ瀬みちる。

 都内の大学に通っている大学生…いや、この様な事態になっているのならば最早過去形だろう。大学生だった存在だ。

 彼女は佐藤と高橋の交渉とも言えなくなり、高橋が一方的に話しを打ち切るまで眺めていた。

 そして、高橋がいなくなったのを見計らって、佐藤へと近づいて行くのだった。


「あの、私もお話し宜しいでしょうか?」

「良いですよ、ですが、あの問答を見ていて良く話しかける気になりましたね」

「あー、何というか、私の願望と貴方の言動が一致している様なので」

「それは、どういう事でしょうか?」

「それはですね…、私奴隷になりたいんです」

 一瞬の沈黙が流れる。

 佐藤は心の内で一言。


 なんかスゴイのが寄ってきた。


「え~、つまり、先程の私達の押し問答を見て、奴隷になるのを承知で話しかけてきたと」

「はい、その通りです。

 私を奴隷にしてください」

「理由をお伺いしても?」

「はい、こんな世の中になってしまったじゃないですか、だから自分の欲望?願望に忠実に生きたいと思いまして。

 そしたら、さっきの問答が聞こえてきた訳です」

「なる程…奴隷になるということは、自由が無くなると言うことですよ?

 それは解っていますか?」

「はいもちろん。

 寧ろこの身体お好きにお使いになってください。

 積極的に!是非に!」

 話しを続けている間に徐々にヒートアップしていく一ノ瀬。

「解りました。

 では、条件などありいますか?」

「死にたくはないのと、痛いのはドンと来いなのですが、跡が残る様なプレイは控えて戴けると嬉しいです」

「そ…そうですか

 解りました。でしたら少々お持ちください」

「はい、解りました」

 佐藤は今まで貯めていたレベルポイントを使用して奴隷術士の職業と、その職業で取得出来るスキルを取得した。

「準備が出来ました。

 これが最後通告です。

 本当に私の奴隷になるのですね」

「はい、お願いします」

 こうして、佐藤はこの新しい概念が適用された世界で初めての奴隷を手に入れたのだった。

「さて、取り敢えずスクアッドを組むぞ。拒まずに受け入れろ」

「はい、ご主人様」


 スクアッド。

 それは新しく追加された概念、フォーメーションシステムで管理されるもので。

 ゲームでいうところのパーティーシステムと同類のものである。

 上位者が下位者のステータスを見ることが出来たり。

 魔物を倒した時の経験値の均等分配(小数点以下切り捨て)が自動で行われるシステムである。


「それと最初の命令だ。

 私の許可無く種族と職業とスキルの取得とレベル上げを禁じる」

「解りました、ご主人様」


 鎧を着た中年の男性である佐藤と、二一歳の女性である一ノ瀬みちるの物語はこうして始まった。

 ただし、一ノ瀬は全裸という何とも締まらない格好ではあるが…

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