蛙娘(ワーニャン)

七星剣 蓮

第1話 蛙娘(ワーニャン)との出会い

 私、七星剣 蓮がかつて諸葛亮と呼ばれていた時代、まだ我が君と出会う前の話でございます。

 人里離れた廬で晴耕雨読の生活を送っておりました。


 ある雨上がりの朝、霧の中を散歩しておりましたらよく知るはずの竹林であろうことが迷ってしまい、見たこともない大きな池に出会したのでございます。


 「なんと珍妙な」


 そう一言呟くと帰り道を探すのも忘れて池の端を散策し始めてしまったのです。

 後で思い返せばなぜそんな行動をとってしまったのか見当もつかないのですが邪気とも妖気とも言えるものに毒されていたのかもしれません。

 そこで彼女に会ったのです。

 

 それは全身が美しい宝石のような碧色をした少女、いやそう感じたのは間違いありませんが人間とは似ても似つかない異形とも言えるカエルの少女でした。


 蛙娘(ワーニャン)は私に気がつき、両肘を石の上について無邪気な笑顔をその両手、いや水かきに乗せて話しかけてきた。


 「あなたはだーれ?」


 「申し遅れました、私は姓は諸葛、名は亮、字を孔明と申します。」


 「ふーん、孔明って言うんだ、私はギギ、よろしくね。」


 彼女はコロコロ笑いながら大きな二つの瞳で私を見つめ返した。


 「ときにあなたは人語を解するようですが、あなたの一族はみな人語を話せるのですかな?」


 蛙娘は少し首をかしげながら答えた。


 「ううん、私だけよ、他の家族やきょうだいは人間の言葉は話せないわ。」


 「あなたはどなたか別の人間から言葉を習ったのですかな?」


 「違うわ、私は人間だけじゃなくて鳥や魚や草木ともお話ができるの、あ、魚さんとは当たり前か、同じ池の仲間ですものね。メダカのヨウくんとは友達よ。」


 蛙娘は聞きもしないことをペラペラと喋ってきた。


 「そうでございますか、私とも友達になっていただけますかな?」


 「嬉しいわ、人間のお友達は初めてだから。」蛙娘は本当に嬉しそうにそう答えた。


 私はこうして蛙娘と友達になった。


 「そこで早速お願いがあるのですが。」


 「何かしら?」蛙娘はキョトンとしてこちらを見つめる。


 「そろそろお暇をしたいのですが、実は慣れているはずのこの地で少々迷ってしまいまして廬に帰ることができないのでちとこまっておるのでございます、お友達のあなたにぜひ帰り道を教えてもらいたいのですが。」


 これは切実な問題なのだが、私の思考パターンはこの状況を楽しんでいるようでもある。


 「いいよ、竹林のワンさんに聞いてあげる、ワンさんはたまに旅人にイタズラをするのよ。」


 どうやらこの怪異の正体はワンさんという竹林の守り神か精霊、もしかするといたずらっ子の妖怪なのかもしれぬ。

 

 「孔明、ワンさんは『あなたなら霧が晴れればこの陣のカラクリはわかるでしょ』と言ってるわ、あなた賢い人なのね。」


 どうやら竹林の配置や道の繋がりの配置を考えれば人の方向感覚を狂わせることができるようだ。私はそう直感してお礼を述べた。


 「ギギさん、ありがとうございます。謎は全て解けました。また遊びに来てもよろしゅうございますか?」


 「うん、いいよ、絶対にまた来てね。」


 私は両手を添えて蛙娘と竹林に向かってお礼をし、我が廬に向かって帰路についた。

 太陽の位置から見ると、もう午後になっているようだ、ずいぶん長いこと迷っていたのだな。


 私は懐紙と筆を取り出し、周囲の竹林や道、積石の位置関係などを詳しく記録した。

 後に石兵八陣と呼ばれる策に応用されることとなるのは後年の歴史学者兵法学者の知るところである。


 ただ、異形ではあったが、美しい碧色の少女に恋心に似た感情を抱いたのだけは覚えている。次に会えるのがいつになるかわからないがまたあの幻の池にたどり着けることもあるだろう。

 今はそう信じていた。


"In the era when I was once called Zhuge Liang, before I met my lord, I lived a secluded life in a humble cottage, farming and reading.One rainy morning, I wandered into a familiar bamboo grove, only to become lost in the mist and discover a large pond I had never seen before.'Most peculiar,' I murmured, forgetting my way home as I began to explore the edge of the pond.Looking back, I cannot fathom why I acted as I did, but perhaps I was influenced by some malevolent or supernatural force. It was there that I met her.She was a girl of exquisite emerald hue, yet unmistakably inhuman—a frog-like maiden.The Frog Maiden noticed me and approached with innocent curiosity, resting her elbows on a stone and speaking with a smile on her lips—or rather, on her webbed hands.'Who are you?' she asked.'I apologize for not introducing myself. My surname is Zhuge, given name Liang, style Kongming.''Hmm, Kongming, huh? I'm Gigi, nice to meet ya.'She giggled and looked at me with her large eyes.'You seem to understand human speech. Can all of your kind speak as such?'She tilted her head slightly before replying, 'Nah, just me. The rest of my family and siblings can't speak human words.''Did you learn from someone else?''Nah, I can talk to not just humans, but also birds, fish, and plants. Oh, speaking of fish, it's natural, isn't it? They're my pond mates. I'm friends with Yo the goldfish.'The Frog Maiden chattered away without being asked.'Is that so? Would you be my friend as well?''I'd love to! You're my first human friend.'She seemed genuinely delighted to accept.'I have a favor to ask.''What is it?' she asked, looking puzzled.'I'd like to return home soon, but I seem to have gotten lost in this familiar place. Could you please show me the way?'Though it was a pressing issue, my thought patterns seemed to be enjoying the situation.'Sure thing, I'll ask Wang in the bamboo grove. Sometimes he plays pranks on travelers.'It seemed that Wang was the mysterious being responsible for this phenomenon—a guardian spirit of the bamboo grove, perhaps, or even a mischievous yokai.'Kongming, Wang says, "If the mist clears, you'll understand the secret of this formation." You're a clever one.'Intuitively, manipulating the arrangement of the bamboo grove and pathways could disorient human sense of direction. I thanked her and bid farewell to the Frog Maiden and the bamboo grove, heading back to my cottage.From the position of the sun, it seemed to be already afternoon. I had been lost for quite some time.I took out paper and brush, meticulously recording the layout of the bamboo grove, pathways, and stone formations. This knowledge would later be applied in the creation of the Eight Diagrams Formation, as known by historians and strategists.However, despite her monstrous appearance, I remember feeling a sentiment akin to love for the beautiful emerald maiden. Though I couldn't be certain when I would see her again, I believed I could return to that mystical pond. At least for now, that's what I chose to believe.

"我曾被称为诸葛亮的时代,在我遇见我的主之前,我过着隐居的生活,耕耘读书。一个雨天的早晨,我漫步进入一个熟悉的竹林,却在雾中迷失,发现了一个我从未见过的大池塘。“非常奇特,”我喃喃自语,忘记了回家的路,开始沿着池塘边探索。回首回想,我无法理解我为何会如此行事,但也许我受到了某种邪恶或超自然力量的影响。就在那里,我遇见了她。她是一个全身如翡翠般精致的女孩,但明显不是人类——像青蛙一样的少女。青蛙少女注意到了我,并带着天真的好奇心走过来,双肘搁在石头上,微笑着说话——或者说,用她的蹼手说话。“你是谁?”她问道。“我很抱歉没有介绍自己。我姓诸葛,名亮,字孔明。”“嗯,孔明啊,我是吉吉,很高兴认识你。”她笑着看着我。“你似乎能理解人类的言语。你们的种族都能说话吗?”她略微歪着头,然后回答道:“不,只有我。我的家人和兄弟姐妹都不会说人类的话。”“你是从别人那里学来的吗?”“不,我不仅可以和人类交谈,还可以和鸟、鱼、植物交谈。哦,说起鱼,那是理所当然的吧?它们是我的池塘伙伴。我和金鱼小友是朋友。”青蛙少女自顾自地说着。“是吗?你愿意成为我的朋友吗?”“我很高兴!你是我第一个人类朋友。”她似乎真心愿意接受。“我有个请求。”“什么请求?”她问道,看起来有些困惑。“我想尽快回家,但我似乎在这个熟悉的地方迷路了。你能带我回去吗?”虽然这是一个紧迫的问题,但我的思维模式似乎在享受这种情境。“当然,我去竹林问问王。有时他会捉弄旅行者。”看来王是这种现象的幕后推手——竹林的守护神,或者甚至是一个调皮的妖怪。“孔明,王说,‘如果雾散了,你“会明白这个阵法的秘密。’你真是个聪明人。”直觉上,通过调整竹林和路径的布局,可以扰乱人类的方向感。我感谢她,向青蛙少女和竹林告别,朝着我的茅舍走去。从太阳的位置来看,似乎已经是下午了。我已经迷失了相当长的时间。我拿出纸和笔,详细记录竹林、路径和石头构造的布局。这些知识后来被历史学家和战略家应用于八阵图的创造。然而,尽管她的怪异外表,我记得自己对这位美丽的翡翠少女有着一种类似爱情的情感。虽然我不能确定何时能再次见到她,但我相信我能返回那个神秘的池塘。至少现在,这是我选择相信的。”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る