第4話

 新入生全員の入寮の儀が終わった。


 寮の振り分けは大体、三等分に行われていた。


 攻撃魔法を得意とする赤色ローブのルージュ寮。

 防御魔法を得意とする青色ローブのアズール寮。

 補助魔法を得意とする緑色ローブのヴェール寮。


 この三つの寮で、三等分に分けられた。

 僕が入る寮であるノワール寮という寮には、僕以外に誰も入寮しなかった。



「それでは、入学式を終わる。これからの不明点は、寮の者やバディに尋ねるように!」


 校長先生がそう告げる。

 全員が校長の方を見つめる。


「それぞれの寮に分かれてオリエンテーションを行うのじゃ!」


 校長は、先輩達に向けてそう言った。

 先輩たちが返事をする。


「はい!」


 校長先生は、自分の仕事が終わったかのようにリラックスした顔をした。


「じゃあ、よろしくのぉー」


 校長先生と、後ろに控えていた先生たちは校舎へと帰っていく。



 残された新入生たちは、寮長を中心として挨拶をし始めた。

 各寮ともに人数が多いから、寮長は大きな声を出して新入生達に説明をしている。


 一方で僕の寮長はと言うと、先輩と二人きり。


「おっす! よろしくな!」

「えっと……、はい! よろしくお願いします」


 あれだけの力を見せつけられたあとだから、少し緊張してしまうな。

 少し、おっかなびっくりと返事をする。


 僕の返事がぎこちないからか、なんだか緊張感のある空気が流れてしまった。

 それを和ませようと、先輩は僕の背中をバンバンと叩く。


「まぁ、緊張するなって。これから寮に行ってオリエンテーションするらしいんだけど、とりあえず移動するか」

「は、はい!」


 先輩に連れられて歩き出す。



 僕が行くことになる、ノワール寮。

 三つの寮とは違う、特別な寮なのかな?


 まさか、新入生で僕だけが行くことになるとは思わなかったけれども。

 他の寮生はどんな人だろうな。


 この学園は、三学年あるんだ。

 今年の新入生は、僕だけがこの寮に所属するけれども、二年生とか、三年生はどんな人なのかな。


 さすがに、こんな怪物みたいな先輩とサシで話し合うのは、大変だからね。

 早く寮に行って、もう少しレベルの近い人と仲良くなっていきたいな。

 早く寮に向かっちゃおう。


「じゃあ、歩いていくぞー!」

「はい!」



 元々の情報であった三つの量。

 大きな洋館を寮にしてるって、さっき新入生が言ってるのを聞いた。

 入学のパンフレットにもそうあったし。


 けど、それとは違う、ノワール寮。

 選ばれた者だけが入れるっていうことなのかな?

 この先輩の他に、どんな生徒がいるんだろう。



 ◇


 先輩と一緒に森の方向に向けて歩き始めたのはいいけど、結構歩いたのにまだ着かない。


「ちょっと遠いけど、着いて来てるかー?」

「はい!」


 学校の建物があるところを中心にして、それぞれ北、南東、南西に向かって寮がある。

 寮は三角形をして校舎を取り囲んでいるような建物。

 そのどの方向にも向かわずに、真っ直ぐ南の方へと向かっている。


 そして、学園内と言っていいのか、鬱蒼とした森の中を歩いている。

 樹木が生い茂り、腰ほどもある草の中を歩こうとしている。


「あ、あの……。こっちであっているんですか……?」

「おう。もちろんだ。こっちが近道なんだー」


 この学園の南には、森が広がっている。

 この学園は王国の中と言っても、道一歩だけで街と繋がっており、むしろ王国外と言って良いくらい。

 街は安全な結界によって守られているが、この学園は四方が王国外となっていて、恐らく街の結界の外だろう。


 こんな森の中、おそらくモンスターだって現れると思う。

 いくらでも魔法を使っても良いように、街からは遠ざけられて作られた場所だ。


 街だったら、王国の魔法使いによって守られているけれども、ここは自分達で身を守らねばならない。


 学園の外には、平野や川など、未開の土地が広がっている。

 そのあたりは、寮ごとに見張りを立てて、学園内にモンスターが入らないようにしている。


 森についても、同じだと聞いたことがある。



「お、なにか心配そうな顔してどうしたんだ? モンスターが出てきても、俺が倒してやるよ!」


 確かに、この先輩なら、どんなモンスターが出てきても余裕で倒せそうだけれども。


「ちなみに、どんなモンスターが出てくるんですか?」


 先輩は、ニコッと笑って楽しそうに語り出した。


「そりゃあ、森だからゴブリンに始まり、それをまとめる長なんていうのもいる。ドラゴンなんて言うのも出てくるぞ」


「先輩は、そいつらを倒してるんですか?」

「あぁ、そうだぞ!」


 楽しそうに笑う先輩。

 やっぱりすごい魔導師なのかもしれない。


 そんな話をしているうちに、森の中にポツンと一軒家が現れた。


「よし着いたぞー! ここが、俺とお前が住む家だ」

「えぇ……?」


 なんだろうここは。

 決して、寮とは言えない。


 小さな一軒家。

 キャンプ上にあるロッジという雰囲気だ。

 元の世界にいても、熊が出て来るじゃないかというような深い森。

 それが森の中にポツンとある。


「汚いところだけど、遠慮しないで上がっててけよ。これからは、お前の家でもあるからな」


 モンスターに関しては、先輩がいるから安心かも知れないけれども、ここの家に一人になってしまったら、恐怖だな……。

 先輩は、小屋のドアを開けて中へと入っていく。

 僕もそれに続いて入る。


「じゃあ、失礼します」


 外観から想像されるような、木造の建物。

 こういうロッジは、木の香りが香ってきて、自然に包まれたような体験が出来るっていうのが、定番の決まり文句だけれども……。


 家の中からは、何やら異臭がする。



 そして、何より気になるのは、床に色んなモンスターの素材と思われる残骸が散乱している。


「え……っと。ここに住んでるんですか……? 足の踏み場がないと言いますか……」


 一言で言うとゴミ屋敷。

 そこは、本当に、本当に汚い家でした。


 寮って、こんなものなの?


「はは! こういうの気にする派か?」


 先輩は笑って言ってくるけども。

 絶対気にするでしょ。


 そもそも、寮という雰囲気がしないし。

 寮って言ったら、同級生たちとわいわいがやがやしたり。

 バディの先輩と楽しく打ち解けあったり。


 食堂みたいなところで、同じご飯を食べたりて。


「まぁ、そのうち慣れるから」

「は、はぁ……」


 中に入ると、大きな釜があり、そこでグツグツと何か音を立てていた。

 もう、なんだか、ちょっと思ってたのと違う所に来てしまったな……。


 そういえば、他の生徒が見えない。

 まさかとは思ったけれども、おそるおそる聞いてみる。


「あの、先輩……。他の寮生はどこにいるんですか……?」

「あぁ? 他の寮生って言われても、この家には俺しか住んでないぞ?」


 えっと、それは寮とは呼べないのでは……。


「いやな、最初は校長も気を使って第四の寮として運営しようとしてたんだけど、なんでか人が居つかないんだよな」


 そりゃあ、そうでしょう……。

 こんな汚部屋にするなんて。


「だから、俺とお前の二人暮しだ!」


 屈託なく笑う先輩は、とても楽しそうに見えた。

 そんなに、僕が寮に所属することが嬉しいのかな……?


「そうだな、最初に当番でもきめちゃうか! 料理当番は、交代交代な。俺も料理好きだし」

「は、はい」


 なんだか、この有様を見ると不安しか湧いてこないけど。


「あとの家事は、洗濯と掃除か。それは、任せた」

「え、あ、あの、先輩……。分担って言うからには、もう少し仕事を分けたり……」


 先輩は、人差し指を立てて横に振る。


「いや、大丈夫。その分、魔法をいっぱい教えてやるから、安心しておいてくれ!」


 先輩は、僕に握手を求めてくる。


「これから、よろしくな!」


 楽しそうに笑う先輩。

 良い人そうなんだけれども……。


 僕が憧れを持っていた学園生活では無い生活が始まろうとしていた。

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