第2話

 通学のトラブルは回避できた。

 こっそり魔法を使って、学校まで一気に飛んできたけれども。

 ひたすら草原にある一本道を進んでいって、山の手前まで行くと、魔法学園がある。


 この魔法学園は遠すぎるって。

 こんな街外れにあるんだもんな。

 街外れと呼んでいいのか、旅館で言うと別館みたいな形だよ。


 急いで飛んで校門までたどり着くと、魔法を解除して地面へと降りる。

 魔法はここまでにしておいた方が良いかな。

 誰かにバレちゃうと後々大変だから。


 地面に降りると、そのまま走っていく。


 魔法学園の中には、大きな校舎がある。

 外観は中世の洋館のような建物だ。

 古くからある校舎なのだろう。

 この魔法学園の歴史を感じる。

 これが、これからの僕の学び舎になるんだ。


 その校舎の前に、グラウンドがある。

 そこに、生徒たちが集まっているようだった。


 少し高い台の上に、おじいさんが上がってきた。

 生徒たちは、そのおじいさんを見てざわついている。


「えぇー、入学生諸君! 挨拶をするから少し静かにして欲しい」


 あー、入学生は全員あそこにいるのか。

 入学する生徒は、グラウンドに集められているようだった。

 よくよく見ると、綺麗に整列をしている。


 早く行って、僕もしれっと並んでおこうっと。

 荷物を持ったままだけれども、走って列の後方へと向かった。


 こんなにいっぱい新入生がいるんだから、バレないだろう。

 列の一番後ろへついても、誰も僕の方を見ていないようだった。


 ふぅ、間に合った。

 ギリギリセーフ。


 僕が列についたところで、がやがやと騒がしかった新入生が話をやめた。

 少し高い壇上にいる、おじいちゃん。


 尖った帽子に、ローブを羽織るという昔ながらの魔導師スタイル。


 あれっ?

 もしかして……。


 パンフレットで見たことがあるからわかる。

 あれが、この学園の校長先生だ。


 ちょうど、校長による話が始まるところであった。

 おもむろに話し始めた。


「やっと、静かになったか。生徒にモノを言うのは、魔法を使うよりも苦労するわい」


 校長は小言を言いながら、咳ばらいをした。


「さて、気を取り直して。入学する諸君、おめでとう。まずは、祝わせて欲しい」


 校長がそう言うと、壇上の後ろに控えている先生へと合図を送った。

 先生たちは、杖を天にかざすと魔法を唱えた。


「「ファイヤー・フラワー!」」


 魔法を唱えた先生たちの杖の先から、天に向かって赤く光る火球が飛び出した。

 それが空へ高く上がると、空で爆発した。

 そして、綺麗に花が開いた。


 僕の元いた世界で言うところの『花火』だな。

 火魔法によって、空に綺麗な花を咲かせるんだ。


 さすが先生方。

 ファイヤー・フラワーもすごく大きい。


 それも、一人何発も何発も撃っている。

 小さな火球を連射していたり、大きい火球を打ち上げたり。


 それをできる魔力量もさることながら、一つ一つの『ファイヤー・フラワー』は空で花が開いたあと、形が変わっていく。

 そして、繊細に色が変わっていくのだ。


 しだれ花火のように、ゆっくりと降ってくる途中で、色が変わっていく。


 綺麗な花火だ。

 歓迎されているんだっていうのが分かる。

 これは、素晴らしい技術だ。


 まぁ、僕だったらもっと大きいものが出せるだろうけどね。

 ……こんなことを言うと、友達から嫌われちゃうから隠しておかないとな。はは。


 だけど、こんなに洗練されたファイヤー・フラワーは、さすがに難しい。

 ライセンス取得だけを目指していたけど、こんな技術があるなら身に着けておきたいな。



「あらためて、新入生諸君。魔法学園へようこそ!」

「「ようこそー!!」」


 花火で盛大に祝われながら、校長と先生たちの言葉によっても祝われた。

 生徒たちからは、誰からともなく拍手と感嘆の声が上がっていた。



「えーー。おほん。少し静粛に。今から大事な話をするから、聞いておくように」


 校長は咳払いしてそう言うと、校長自身も杖を空へと向けた。



「諸君らは、この学園で魔法を学ぶことになるのじゃが、最初に魔法というものがどんなものかを知らなければならい」


 校長は、杖にたっぷりと魔力を込めると、空へ火球を打ち出した。

 先ほどまで後ろの先生たちが出していた火球とは比べ物にならないくらい大きな物だった。



 ――ドーーーーーン!


 打ちあがりの音だけでも、かなりの威力があるというのがわかる。

 校長の放った火球は空へと昇っていった。


「ふぅ……。魔法の力はじゃな。こんな風に便利に使うこともできる」


 空に放たれた大きな火球は、高く高く空を駆け上がる。

 どこまで行くのか肉眼では見えなくなると、いきなり空で大爆発を起こした。


 今までのファイヤーフラワーの比じゃない大きさだ。


 数秒遅れて、音がやってくる。

 そして、その数秒後に爆風が地面へと吹き付けられた。

 あんなに上空に打ち上げたはずなのに、ここまで爆風が来るのか。


 吹き荒れる風の中で、淡々と校長が説明を進める。


「便利な一方で、魔法とは強大な力じゃ。一歩扱いを間違えると、命に係わる」


 綺麗に空に開いた火の花。

 それが、段々と地面に向かって落ちてくるようだった。

 まるで、ファイヤーボールと一緒だ。


「綺麗に見えるファイヤー・フラワーでも、一歩制御を誤れば、モンスターを攻撃するファイヤーボールと同じなのじゃ」


 やっぱり、僕の見間違いじゃない。

 無数のファイヤーボールが降ってくる。


 それも、一つ一つがかなりデカい。

 落下速度も相まって、かなりの威力になるだろう。


 こんな物が一発でも地上に到達すると、大惨事になってしまうのではないか………?

 これは、グラウンドにいる生徒たちは避難した方が良いかもしれないぞ……。


 そんな中でも、校長は淡々と続ける。



「不測の事態というのは、いつ、どんな状況でも、起こりうる」


 校長先生、悠長に話している場合じゃないでしょ……。

 お年みたいだから、ボケちゃったのかな……。


 まずいな。

 新入生達は呑気にファイヤー・フラワーを眺めているけれども。

 ここで僕がまた魔法を使うにしても、入学して早々に目立ってしまうのは気が引ける。


 そう思っていると、生徒たちの中から声が聞こえた。


「アイス・フォレスト!」

「ウォーター・ショット!」

「グラビデ」



 グラウンドにいた生徒たちから魔法が発動されたようだった。



 アイス・フォレスト。

 氷魔法だ。


 一瞬で育つ樹木かのように、地面から氷の柱が伸びていった。

 僕がビルを凍らせたのよりも、はるかに大きい氷の大木。

 その大木から無数の枝が伸びていく。

 そして、大きな傘のような形になる。


 そこにファイアーボールが降ってきたが、氷の大木が生徒を守ってくれているようだ。


 生徒たちを優しく包んでファイヤーボールの傘代わりになり、ファイヤーボールの雨を無効化した。



 一方で、水の球が打ち出された。

 あれは、『ウォーター・ショット』だ、

 無数に打ち出されている。


 打ち出された水の球は、的確にファイヤーボールをとらえていった。

 一弾も外すことなく、ファイヤーボールに命中していき、それによってファイヤーボールを無効化していった。

 命中した水の球は、そのまま空中で蒸発して白く消えていく。



 一部のファイヤーボールは、地面まで落ちてこずに、浮遊したままであった。

 きっと、重力魔法の『グラビデ』だ。


 他の魔法が生徒たちの上を中心にして守っていたのに対して、その他の範囲を全てカバーするかのように守っていた。

 生徒たちがいない場所も含めて、火球を宙に浮かせていた。

 こんな広範囲の魔法は見たことが無い。


 宙に浮かされたファイヤーボールは、次第に鎮火していった。


「……すごい。こんな魔法があるのか」


 ファイヤーボールは、数人の魔法によって、あらかた無効化されていった。

 しかし、これらの魔法も万能では無かったようで、一部の大きいファイヤーボールは地面へ向かって進んできている。

 他と比較して、大きい部類のものだ。


 生徒たちの上にも、まだ残っているようだった。

 一つだけでもデカい。

 これを食らってしまったら、ひとたまりも無いよ……。


 ここは、僕の出番か……。


 魔法を唱えようと身構えていると、どこからともなく声が聞こえた。


「エア・ブレス」


 誰かによって、つぶやかれた魔法。

 それによって、地面から風が吹きあがった。


 その場にいた全員が浮き上がってしまうくらいの突風。

 一瞬浮き上がった感覚があったが、どうやらグラビデの効果によって、どうにか地面に留めてもらっているが。

 何もなかったら、どこまでも空高く飛んで行ってしまうくらいの威力だ。


 風は空に舞い上がり、残りのファイヤーボールを全て上空へと吹き飛ばしていく。

 ファイヤーボールは、そのまま上空へ舞い上がっていって見えなくなった。

 ついでに、空に浮かぶ雲をも霧散させてしまった。


 雲一つない、晴天が現れた。



 生徒を守った魔法。

 氷魔法、水魔法、重力魔法。

 僕の想像を超えるような強大なものであった。


 けど、最後に放たれた風魔法は、他の三人とは明らかに魔力量が違った。

 他の魔法が無くても、あんなに大きかったファイヤー・フラワーを一瞬にして、消し飛ばせるくらいの魔力。


 僕よりも、強い人がこの中に何人もいるのか……。


 生徒たちは、言葉を失っていた。

 危機的状況だったこともあるが、自分たちが持っている魔力を、はるかに超える存在を目の当たりにしたからだろう。


 風魔法がやんで、静かになったところで、校長は淡々と話しを続ける。


「このように、不測の事態にも冷静に対応できることを目指して欲しい」


 魔法を使った生徒たちは、そろりそろりと校長のいる壇上の下に集まった。

 そして、新入生たちの方を向く。


「今しがた、私の魔法を無効化してくれた生徒たちじゃ。こちらが、君たちの先輩になる」


 校長の前には、全部で四人いる。

 全員、強力な魔力が漏れ出ているのがわかる。


「初めて魔法を使う諸君じゃからの。しばらくの間は、魔法が暴走せぬよう、先輩方とバディ制度を取ってもらうことにするぞ。各々、先輩方から魔法を学び取ってもらうように!」

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