結城結月、高校一年
恋宮高校。
平均よりも少し高い偏差値ながらもそこそこ勉強に力を入れた、制服の人気以外は別段目立つ特徴もない都立の高校である。
そんな高校の一教室。青春真っ只中な少年少女の騒がしさの中、
一緒にいるのはゆるふわな茶髪のギャル風の巨乳少女である
元は整った愛らしい顔ながらも、前へと垂らした黒髪で目の一部を隠し、目立たない地味さを醸しながら生きる
そんな二人と入学時のひょんな縁もあり、そのまま数少ない友人として付き合いを続けていた。
「スラバ行かんー? 新作フラペ飲みたい気分ー」
「まじぃ? 新作フラペってあのミカン味ぃ? 期間限定とか絶対はずれっしょ」
「それが意外と高評価で好評価ー。ボリボリ君のミカン味くらい当りだって
「まじ!? ユウ君が言うなら当りじゃん! うちあれ好きなんだよねー。夏の共って感じじゃん!」
ちなみにユウ君というのは
企業と契約しているプロゲーマーであり、派手なルックスながら落ち着きのある高学歴というギャップで若い女子からの人気を集めている男で、そんな男が勧めるのであれば乃々愛が飲まない理由はなかった。
「なーなー、今日こそ
「ごめん。今日もバイトある」
「まじかー。忙しすぎんだろー。もっと青春しないと損だぞー? うりうりー」
そんな二人に小さくため息を吐きながら、帰りの支度を整える
鞄を手に取り、友人の誘いを断りながら席を立とうとしたのだが、それよりも早く乃々愛がべったりと抱きついてしまう。
「おねがいよー。少しだけでもあたしに付き合ってくれよー。どうせバイトまで時間あるんだろー?」
「……前もそんなこと言ったけど、結局ぎりぎりまで離してくれなかったよね?」
「そうだっけ? じゃあ今回は飲むだけ! 飲むだけだからさー?」
「……はあっ。いいよ、私も少し気になってた。ミカン味」
「まじぃ!? やりぃ、流石
清潔感ある美少女の匂いが鼻を擽りながらも、一欠片の眉を動かすこともなく。そして取って付けた最後の言葉の意味なんて理解していないだろうと思いつつ。
けれどこれは何を言っても無駄だと、そう判断した
「ほら
「……やれやれ仕方ない。
せっつかれた
そんな二人を前に少し微笑みながら、自身も鞄を背負い三人で教室から出ていく。
「あ、あのーそこの方々。ちょーっとだけいいですか?」
そんな帰り際、声を掛けられたのは下駄箱で靴を履き替えている所だった。
最初こそ自分にではないと
面倒臭いと思いながら振り向くと、そこにいたのは当たり前だが同じ制服を着ながらも、首からカメラを掛けていた、普通とは言い難い褐色肌の少女だった。
「ん? 誰こいつ?
「知ってるけど知らんー。友か他人かと言えば他人ー」
「
「……ない」
それでも思いつかず、同じ学校だから見覚えがあるのだろうと考えた
そんな
「申し遅れました! 私は──」
「
「あーあれね、確かにあったわ。春頃だっけー? 正直あんま笑えんかったわー」
だが溜めた一瞬の隙に、名前を明かす前に
それを聞いて固まってしまった少女を前に、
そしてつい昨日、魔法少女として
「……えっと、そうです。その
「どっちかと言えば悪名じゃね? 好き勝手やりすぎて推薦とか受けられなさそう。んで何の用? あたしら時間ないし、ゴシップのネタになって人生壊されんのとかマジ勘弁なんだけど?」
そんな
気を取り直した彼女は目を輝かせながら、真っ直ぐに
「是非ともそちらの
「……え、それを私に?」
わざわざ指差されてのご指名に、
学校では二人の美少女と付き合いながらも、その影に隠れて欠片も目立つことをしていないと自負している
二年前からそこそこ伸びた身長と魔法少女の恰好、そして全然違う髪の色でバレるはずがないと分かっていたとしても。
そんな自分が昨日の今日で指名されたことで勘ぐってしまったのだが、まったく別の話題だったので逆に戸惑ってしまう。
「パース。あたし達、これからスラバでフラペ女子会すんの。記者ごっこに付き合ってる暇ないんだわ」
「そ、そんなこと言わずに! お茶も出しますよ!」
「いやだって言ってんの。ほら行こ二人ともっ、早くしないと売り切れちゃう!」
そんな
それでも
「ありがとっ。助かった」
「何が?」
「……何でもない。それよりミカン味、楽しみだね」
「もち!」
並んだ二人の後ろから、
果たして分かっているのか、それとも何も分かっていないのか。
ともかくこうして助けてくれたり一緒に遊んでくれる明るい
「にしてもあいつ絡んでくるとはー。ゆづっちゃん、もしや人間拉致ったんー?」
「してない」
「だしょうねー。ゆづっちゃんは話題になるときは人目を避けてこそこそじゃなくて、世界の中心で愛をどっかーんって感じだもんー」
気怠さと適当さが合わさったような口調でそう言ってから、すぐに首を前へと戻す
飄々とした彼女にどう思われているのか気になりながらも、
「ああいうのまじで鬱陶しいよね! 美肌やメイクのコツとかならいくらでも答えてあげんのに、行方不明なんて
「需要と供給という単純な話なんすよねー。下世話な話が嫌いな
「当然っしょ! 人の不幸楽しむとか生き物として最低だっつーの!」
ふんと鼻を鳴らしながら断言する
そんな二人の会話を後ろで聞いていた
「……ふふっ」
「お、ゆづっちゃんは私に賛同派っぽいー。
「えーひどっ! そういうの罰当たんだからね!」
大げさに、わざとらしく顔を背けるてしまう
そんな彼女の様子に
「おーおー怒んなよギャルガール。我がマニーで後で五百円以内なら奢ってやるからさー」
「いいって別に。……ってか、本当に気をつけなよ
「……私より
「我が輩はほらー、一応合気とキクボクと洋画を嗜んでおります故ー。最悪金のあれを蹴り飛ばしてダイでハードなランデブーですけえのー」
自信ありげな様子で軽く蹴りの素振りを見せる
小柄ながら並の魔法少女よりもしなりのありそうな蹴りに、確かに自分が一番可能性が高そうだと微笑みを見せる。
「でさでさ!
「興味ない」
「だむだむ。ゆづっちゃんは配信とか観ない硬派少女なのですよ。ちなみにそれがしは顔が気にくわないので却下でー」
「うへー。周りに同担いないくて激辛ー。同担拒否でもねえから語れる相手欲しいわぁ」
そうしてたわいもない話をしながら街中を歩いていく三人。
魔法少女ラブリィベルこと
小さく未熟で人一倍臆病だった少女は今、細やかながらも前を向いて現実を生きていた。
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