肉、肉、肉、野菜、肉
魔法少女エターナルの永遠結界の中。
世界から隠されたその敷地に集まった五人の魔法少女達は今、来たるべき戦いに備え──。
「というわけで! 再会とこの後に精を付けるため、焼き肉パーティ開催……なあお主ら、乾杯とかせんのか?」
「いえーい☆ にっくにくー☆」
「あっ、このクソイナリッ! てめえ俺の育てた肉を──」
「いただきー☆
──夕暮れ空の下、煙と騒々しさを立たせながらバーベキューへと勤しんでいた。
網の上で肉を奪い合い、ぎゃーぎゃーと騒ぐ赤みがかった
『俺の酒に酔え!』などと書かれた黒Tシャツ一枚の
「婆に厳しい孫達で儂は辛い、とても辛い。なので一番近くの
「……よしよーし」
「うむうむ。善き哉善き哉……ってこれは猫の撫で方! 下顎すりすりするでない! なあー!」
そんな哀れな婆の下顎を軽く撫でながら、そろそろ自分も肉が食べたいなと思っていた矢先、目の前に出された皿に顔を上げる。
「いつまでも辛気臭い顔してるんじゃないわよ。こっちのご飯までまずくなるじゃない」
「……サンキューまりな。ってか何その緑? 最早皿の上が畑じゃん」
「美容と健康の為よ。もう二十も後半だし肉ばっかり食ってられないのよ、クソガキが」
手渡された皿とは違い、最早草食動物の餌と、そう思えてしまうほど緑緑緑な皿の上。
そんな野菜畑に顔をしかめながら、渡されたきちんと肉の入っている皿を受け取って一枚頬張る。
口内で滴る肉汁。歯ごたえはありながら、決して硬さを感じない肉の質。
この数年で口にしたことがない、スーパーで割引シールの貼られたような肉ではないお肉に
「……で、なんなんこれ。なんでこんな呑気に肉食ってんだ私ら」
「あんたのせいよ。起きてからずっと縁側で馬鹿みたいにへこんでるから、
「
相変わらずの横暴、口の悪さだと首を傾げながら肉を食べていき、あっという間に皿を空にする
一度食べ始めると求めるように口内は涎を、腹は音を鳴らして次の肉をと訴えてくる。
だが焼き場で馬鹿やってる二人の馬鹿に近づきたくはないと、そう思っているといつの間にやら皿に肉が増えていて、膝にいたはずの
「……しかしそうか、そいつは悪いことをした。悪いな婆さんと、まり……な?」
「気にしなくていいわ。所詮は二十過ぎても魔法少女なんてやってる馬鹿共、どこまでいっても飲む口実が欲しいだけだから。……ああやっぱりなし。是非とも感涙にむせび頭を垂れなさい。この私、ただ一人に」
ぶつぶつ不満を呟きながら、瑞々しい緑とワインを存分に流し込んでいくまりな。
そんな黒髪の長身美女が指を鳴らすと、
「相変わらず見栄え悪いなぁ。女王かよ」
「いいのよ、私の手足みたいなもんだし。遠回しな
この切れ目も相まって、子供が見たら泣くかもしれない絵面だなと。
「しかし何故肉なの? 女が五人もいるのだから、もうちょっとヘルシーにいくべきだと思わない? ねえちょっと聞いてる? ねえちょっとー? ねー?」
「だって肉の方が美味いじゃん」
「お肉は正義だよね☆ っていうかおばあちゃんひめちゃんのやわわな膝枕とかずるーい☆ まさかこれが、NTR……!?」
「儂もぶっちゃけ葉より肉じゃな。別に歯が欠けてるわけでもないしのう」
「……
吠えながら椅子ウサギの気持ちも考えずに立ち上がり、ひたすらに地団駄を踏むまりな。
そんな哀れな女に相応の視線を向けながら、米と飲み物が欲しいなと思った瞬間、湯気昇る白米の入った茶碗と氷と泡立つ茶色の液体の入ったグラスの乗ったテーブルが目の前に現れる。
「……毎度悪いな」
「ん? 儂じゃないぞ?」
「じゃあ誰が……ああっ」
「パチコーン☆」
「…………はあっ」
じゃあ一体誰がと、そう思ったのも僅か一瞬。
全力で訴えてくる強烈な視線と、元々二人しかいなかった容疑者の残り一人だという確信に鈴野は大きくため息を吐きながらもそいつの──めいの方向へ目を向ける。
案の定、かさねとぎゃーぎゃー言い合いながらも
そんな彼女に自身の推測が間違っていないことを理解した
「……えーっと、まあどんまい。まあお前も綺麗なんだしいいじゃねえか。あと私は好きだぞ、草も」
「あんたが言うとただの嫌味なのよ。劣化とは無縁な女の敵め」
薔薇の棘もかくやと思うほどの刺々しい口調で返しながら、まりなはまたも一気にワインを飲む。
「いいわよね、ここ。欲とは無縁な自然の中。落ち着ける屋敷に趣味と平穏に包まれた隠居生活。私もこういうスローライフしたいわぁ。無論、伴侶は見つけてから」
「そういや社会人、普通のOLだったか。表と裏、二足の草鞋なんて大変だったろ?」
「まったくよ。無責任で暇であろう無職の連中は手伝ってくれないし、後輩達は軟弱で責任感なんてないし。ホープちゃんくらいよ、手足として十全に機能してくれるのは」
「相変わらず口悪いな。まあ、お前が言うならそうなんだろうけどさ」
昔から歯に衣着せぬ、悪く言えば力より言葉で敵を作りやすいやつだったと懐かしむ
ごくりと泡立つコーラの爽快感で喉をリフレッシュしながら、苦労をかけた女の話を飯のついでにと耳を傾けていく。
「最悪よ、最悪。こんなん飲まなきゃやってられないっつーの。大体なんでここまでやって結局仕事も辞めなきゃならんわけ? 私の人生何だったのーって感じ。この苦痛、あんたに分かる? ねえフリーター?」
「じゃあ来なきゃよかっただろ? 別にこれ、強制じゃねえぞ?」
「……はあっ。はあーーっ」
大きな大きな、心の奥底から目の前の生き物にうんざりするようなため息。
そこまで近くないはずなのにい鼻が捉えてしまったアルコールの臭いに、
「馬鹿ね、だから貴女は昔から馬鹿なのよ。のうのうと見捨てられると思う? むざむざ死に行く馬鹿共に知らん顔して、その後楽しい人生送れると思う? 無理に決まってるでしょ? どんな男捕まえようが一生罪悪感塗れでまともな生活送れんわ」
「……やっぱりすごいやつだよ。だから国を変える義賊なんて目指せたんだよな、怪盗
「次それで呼んだら覚悟しなさい。あそこのギターと酒に溺れてる甘ちゃんクズと違って本気で圧死させてあげるから。社会人はその辺残酷なのよ」
「……はいはい」
ふんと鼻を鳴らし、矢のように鋭い殺気を飛ばしたまりなにやれやれと首を振る
そんな
「……あいつが一番暴食を尽くしてないか?」
「それがまりなの良き所よ。相も変わらずストレスと理性の狭間で暴れている、難儀ながらに素直な
「そうかなぁ。甘やかしすぎじゃないかなぁ」
女の暴飲を見守る
端から見たらシングルマザーと一人娘な二人をまりなは一瞥し、それから「けっ」と不快そうながら、怒りと穏やかさの両方を抱えた表情で更に酒を呷り出す。
「けっ、お高く止まってるだけだろ? 根気はあるのに婚期が来ない、上から目線のクソ年増」
「やーいお局うさちゃーん☆ マウント取りたがるくせにボクより低収入ー☆」
「……殺す。殺してやるわ。このくそ害獣共がッ! 私はまだ二十六ッ!! あんたらとそう大差ないっつーの!!」
そんなまりなの背後から忍び寄る二つの影。
頬を火照らせ、口元を緩ませ、肩を抱き合いながら近づいてきたかさねとめいは、座るまりなの耳元で喧嘩した子供のようにちくちくと囁いていく。
それを耳にして額に血管を浮き立たせ、ゆっくりと立ち上がるまりな。
ワインボトルに魔力を込め、武装したウサギをどこからともなく出現させると、一目散に逃げ出した二人を鬼の形相で追いかけていく。
「うむうむ、善き哉善き哉。三人ともよく吠えて元気で何より。どうじゃ? お主も混じってくれば楽しいのでは?」
「お断りだ……って積むな積むな。肉が山になってるから、せめてそこの焼きホタテとかもプリーズ!」
「なあにお主はまだまだ若い。ほれ食うのじゃ食うのじゃ、儂が満足するまで食べるのじゃ」
ぎゃーぎゃーわーわーと騒ぐ犬、狐、ウサギ。
そんな三人を楽しそうに見守り
「……こんなんで明日大丈夫かぁ?」
「平気じゃろう。何だかんだ最後にはまとまっていたのが儂ら魔法少女。あのときだってそうだったじゃろ?」
「……そうだな。あの人も前日までパチンコで大負けしてたわ」
自由奔放、勝手気まま。どいつもこいつも好き勝手。
そんな光景に
昔はもっと数も多かったし筆頭であった魔法少女がカスだったけど、それでも最終的にはまとまっていた。
それに比べたら今はその三分の一。どいつもこいつもが数年も前に思春期を終えた、魔法少女を名乗るには年取った奴らばっかり。やるときはしっかりとやってくれるだろうと、
「つくづく喧しい連中だよ。……ま、負け戦でも退屈はしないけどな」
「じゃろう? それでこそ我らじゃよ」
からからと笑い、それから瓢箪に口を付ける老少女。
「でさ、デザートとかある? 出来ればプリンとか食べたいんだけど」
「もちろんあるぞ。むふふ、楽しみじゃのう。夕食が終われば共に風呂で乾杯し、それから部屋で酒とつまみを置いて女子トーク。恋バナとか聞きたいのう。それからそれから──」
「……はあっ、夜は長そうだな」
小さく息を吐きながら、自らの皿に乗った山盛りの肉へと向き合う
けれども、そうは言いながらも彼女の顔に憂いはなく。むしろ憑き物が落ちたように、優しい微笑を浮かべていた。
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