山暮らしの竜に転生したら生贄としてお姫様がやってきたので妻にする。
ナガワ ヒイロ
第1話 山暮らしの竜、過去を振り返る
食っちゃ寝、食っちゃ寝……。
そういう夢のような生活をしたいと思ったことはありませんか? ありますよね?
できるんだよ。そう、ドラゴンに転生したらね。
……ア◯フォンのCMっぽく言ってみたけど、本当にドラゴンはそういう生活をしている。
特に俺の場合、草食のドラゴンなので草や葉が大の好物だ。
え? あ、はい。どうも、我輩はドラゴンです。名前はまだ無い。
話を戻しますね。
余計なエネルギーの消費を抑えるためか、ドラゴンの身体は常に眠たいし、寝て目が覚めたら何日も経過していたことが今までに何度もある。
でもドラゴンは焦らない。
人間だったら寝坊だ何だと大騒ぎして発狂してしまうかも知れないが、竜は焦らなくていい。
草を食って寝て、また草を食う。
まさにぐうたらの極み。そう思っていたある日の出来事。
「黒竜様。どうか私の命と引き換えに、その怒りをお鎮めください」
めちゃくちゃ可愛い女の子が生贄として俺の住む廃神殿にやってきた。
おっぱい超でっかい。
さあ、皆さん。声に出して言ってごらん。語呂が良くて何度でも言いたくなるから。おっぱい超でっかい。
……現実逃避はやめよう。
なぜ美少女が生贄としてやってきたのか、その理由は数日前まで遡る。
え? 竜に転生した過程も話せって?
仕方ないなあ。
あれはそう、ダンプカーに十五キロ引きずり回されて原型を留めなくなるほどぐちゃぐちゃになって死んだ後のことだった。
◆
「
気が付いたら俺は知らない場所にいた。
右を見ても左を見ても真っ白な空間が延々と続いており、自分が今どこに立っているのかすら分からなくなってしまう。
まるで水に浮いているような浮遊感もあった。
そして、その知らない場所で絶世の美女が俺に向かって土下座している。
金髪碧眼のボンキュッボン。
グラビアアイドルですら裸足で逃げ出すようなナイスバディーなお姉さんだった。
「えーと、取り敢えず頭を上げてください。まず貴女はどちら様ですか? それとここは?」
「私は女神アルティナ。地球の神の許可を得て、貴方をこの神域にお招きした者です」
「……女神?」
これはあれだろうか。異世界に転生する前触れだろうか。
俺はネット小説が大好きだからな。詳しいんだ、そういうの。
「残念ながら、少し違います」
「うおっ、心を読まれた!? まじの女神様なのか……。てか違うの? 異世界転生じゃないの?」
「……貴方は本来、地球で生まれるはずではなかったのです」
「え?」
女神様が詳しい事情を話し始める。
「この宇宙には無数の世界があり、世界にはそれぞれ神がいます。神々の役割は多岐に渡りますが、主に魂の管理で、他の世界に魂が流出しないようにしています」
「ふむ?」
「ですが以前、私の管理する世界で大規模な核戦争が起こり、億単位の死者が出ました」
「う、うわー」
「その結果、管理が行き届かず、魂が他世界にまで流出してしまったのです。何とか殆どの魂を回収したのですが、一つの魂が遠く離れた地球に流れ着き、本来は死産となるはずだった赤ん坊に宿ってしまい……」
なるほど。それが俺ってことか?
「その通りです。本来、魂はその世界に適した形をしており、異なる世界で生まれ育つと最悪な不幸に見舞われるようになります。因果律が狂う、とでも言うのでしょうか」
「……ふむ……ふむふむ……」
「竜季さん? 大山竜季さん? おーい?」
たしかに俺は子供の頃から不幸だった。
幼稚園の時、多額の借金を残して父親が蒸発し、母親はアルコール中毒とギャンブル依存症になってネグレクト。
小学生になったら同級生から暴力を振るわれるし、好きな子はいじめっ子が好きだし。
中学生になったら借金取りに捕まってマグロ漁船に乗せられ、船から落ちて南極に漂着し、ペンギンさんたちと一ヶ月のサバイバル。
高校生になったら犯罪組織に拉致されて、内臓を売られそうになったことが何度もあったな。
大学では卒論を親友だと思っていた奴にパクられて留年するし、気分転換で海外旅行に行こうとしたら飛行機が墜落した。
ようやく社会人になったら就職先がブラック企業で苦労した。
おまけにテロリスト集団に会社のビルを乗っ取られたりもしたな。
最後にはダンプカーで十五キロ引きずり回された挙げ句、原型を留めなくなるほどぐちゃぐちゃになって死んでしまった。
そうか、俺に起こったこれらの不幸は全て因果律が狂っていたからなのか。
女神様の管理不足が原因なのか。
「なるほど。一つだけ良いですか?」
「は、はい、なんでしょう?」
俺は大きく息を吸って一言。
「ざっけんなコラァ!! お前どう責任取るってんだぁん!?」
「ひゃいっ、す、すすすすみませーん!!」
女神様が勢い良く頭を地面に擦り付ける。
いや、俺だってこんな風に怒鳴りたくはない。女神様だってわざとじゃないだろうし。
でも怒鳴らなきゃ頭がどうにかなりそうだった。
俺の今までの人生で味わった苦痛や恐怖が他人のせいだと分かったら、多少は当たり散らしたくもなる。
「そ、それは、ごもっともです。ですので、今回は前世で不幸だった分、本来の世界で幸せになってもらいたいなと思いまして!! 私から可能な限りのサービスをさせていただきます!! 前世の記憶をそのままに、色々な特典をお付けしますから!!」
「……まあ、そういうことなら」
「ありがとうございます!!」
色々と言いたいことはあるが、これ以上は女神様に言っても仕方がない。
謝罪の意味も込めてサービスをしてくれるというならお言葉に甘えようじゃないか。
「で、具体的にはどんなサービスなんです?」
「はい!! 私の世界で最も発展した国……と言っても、核戦争で一度文明が滅びているので、地球で言うところの中世ヨーロッパくらいの文明レベルですが……その中で最も発展した国の第一王子に転生させて――」
「結構です」
「え? あの、すみません。よく聞こえなかっ――」
「結構です。王子とか面倒ですし、現代知識で無双して周囲からチヤホヤされたいとか、そういう年頃でもないので」
「あ、はい」
女神様が目に見えて落ち込むが、俺はもう人間が嫌になってしまったのだ。
俺の生前の不幸は大半が人間によるもの。
コミュニケーションとか面倒臭いし、王子みたいな絶対に誰かと関わるような転生先は何があってもお断りだ。
ハーレムとかそういうのに憧れはあるけど、今は一人で静かに過ごせる時間が欲しい。
「転生するなら人間以外でお願いします」
「で、ではスライムとかどうです? 敵をバンバン捕食したら凄く強くなれますよ!! 魔王にもなれちゃったり――」
「最初から強い方が良いんですけど。あ、どうせならドラゴンにしてください。強くなる過程とか要らないので世界最強で」
少し欲張り過ぎかな、とは思いつつも要求は止まらない。
「でも人間が恋しくなることもあるかも知れないので、いつでも人化できる魔法を使えるようにしてください」
「は、はい。分かりました」
「あ、でも基本はドラゴンの姿で暮らしたし、雨風を凌げる場所が欲しいな。どっかにドラゴンの巨体が丸々入れるような建物とかありません?」
「そ、それでしたら、エレスト山という世界一高い山の山頂に旧文明が私を祀っていた廃神殿がありますから、そこを使いますか? 結構大きいですし、ドラゴンの身体でも大丈夫だと思いますよ」
「お、じゃあそれでお願いします」
こうして俺は女神様に色々な要求をし、本来生まれるはずだった世界へ転生することに。
謎空間から転生先の世界に送られる寸前、女神様は改めて頭を下げてくる、
「大山竜季さん、本当に申し訳ありませんでした。今回のお詫びとは別に、私の部下の天使をお側にお付けします。どうか有効にご活用ください」
「え? いや、別に要らないんですけど」
「ふふ。天使と言っても人型ではありませんから、ご安心を」
そう言って女神様は微笑み、俺の意識は遠退いて行った。
やがて目を覚ました俺は、体長十数メートルはあろうかという巨大なドラゴンに転生するのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「女神様のπは読者の皆様が人生で一番デカイと思ったサイズ」
「初手ア◯フォンで笑った」「ガチで不幸すぎて笑う」「あとがきの謎情報助かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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