何の変哲もないモブキャラに転生しましたけど、何故かラスボスと裏ボスが堕ちるはずの闇堕ちフラグをぶっ壊してました~世界を滅ぼすほどの極悪人になるはずの奴らが世界を救うほどの善人になっちゃいました~
新条優里
第1話異世界への誘い
俺はどこにでもいる何の変哲もないモブキャラだ。 趣味と言えばゲームやラノベしかなく、本当は学校にも行きたくない。
学校に行ってもぼっちでつまらないが、不登校になれば親に心配かけるし、将来も心配だ。 だからと言って将来やりたいことはない。
学校ではラノベを読みながら気配を隠している。 なので気配隠しのスキルは上達した。
と言っても、ラノベみたいにダンジョンやステータスがある世界に生きているわけでもなく、ごくごく普通の剣も魔法も出てこないファンタジー要素皆無の日本に生きている。
スキルが上達したというのは、俺の尺度で、スキルレベルもない。 俺が勝手に言ってるだけだ。
普段喋る相手もいないので、休憩時間は異世界転生して無双する妄想をしている。
たまに虚しくもなるが。
帰宅するとすぐにゲームを始める。 俺がゲーム、特にRPGが好きなのはレベルシステムがあるからだ。 ステータスが上がるのを確認するのは気持ちがいい。
対照的にアクションや、格闘ゲームというのはプレイヤーのスキルが重要だ。
反射神経や、コマンドを入力するタイミングというものが重要だ。
そういう方が好きという人もいるだろうし否定はしない。 だが、個人的には合わなかった。 スポーツも得意ではないし、反射神経が良いほうでもない。
逆にRPGは続けていれば必ず強くなる。 レベルが上がり、装備を整えれば誰でも強くなれる。
攻略サイトを見て計画的に進めれば速く進めるだろうが、速いか遅いかの違いでしかない。 時間をかければ間違いなく前進する。 そしてエンディングを迎えることができる。
俺が今やっているのは、オブシディアンクロニクルというダークファンタジーRPGだ。 黒のシックなパッケージと、ダークな世界観に惹かれて購入した。
買って正解だった。 残酷な世界と、闇を抱えた敵キャラ。 陰鬱な雰囲気とは対照的に、美麗なグラフィックはプレイヤーの心を掴んで離さない。
敵キャラだけなく、登場人物全体的に善悪の境が曖昧で、それがストーリーに重厚感を与えている。
暗黒の洞窟や、荒廃した都市という様な、いかにもダークファンタジーという舞台が待ち受けている。
敵キャラは魔法だけでなく、呪いや、厄介なスキルを駆使してくるので、対策が欠かせない。 装備やアクセサリー、スキルで防ぐのが手段だ。
そして一番の醍醐味は高難易度のボスとのバトルだ。 壊滅級の攻撃を繰り出してくるボスとのバトルは対策必須だ。
強力な装備と魔法を集めて挑むことになる。 ボスは強力だが、装備やキャラクターの性能が秀逸で、そのゲームバランスは絶妙だ。
その魅力に取りつかれて、多数のプレイヤーを長時間プレイに引き込んでいる。
俺のそのうちの一人だ。
全てが俺の超好みのゲームだ。 同級生に話せば、中二病ぽいと馬鹿にされるかもしれないが、俺には話し相手がいない。
黙って一人で世界観に浸ることができる。 これもぼっちの特権だ。
かなり楽しませてもらったが、もうエンディング間近だ。 間もなくラスボスのレイヴァス戦が近づいている。
レイヴァスは人を人とも思わない残虐なキャラだが、ネットでは人気がある。
その理由は、銀髪細身のイケメンで、残虐とはいえ、その信念に揺るぎがないところだ。
こちらのダメージは中々通らない。 さらに、致死級の攻撃を繰り返してきて回復に忙しい。 だが、このまま徐々にだがダメージを与え続けていれば必ず勝てる。そう考えると感慨深くなってきた。
こんなに楽しませてもらったが、もう終わりなのか。 オブシディアンクロニクルに裏ステージがあるのは、ネット情報で知っているが、本編は終わりだ。
裏ステージはやるつもりだが、寂しくもある。 記憶を消してもう一度やりたいほどの良シナリオだった。
主人公が最後の一撃を繰り出し、レイヴァスは眩い光とともに消えてゆく。
悪の限りを尽くした人物ではあるが、可哀想でもある。 救いはなかったのかな。
このゲームはマルチシナリオではないので、ここで本編は終了だ。 エンディングや裏ステージで、彼のバックグラウンドを知れるチャンスがあるのだろか。
そのエンディングが始まろうとしている。 ん? だがおかしい。
死んだはずのレイヴァスが画面に映っている。 何かの演出? 過去回想? そんな俺の想いとは裏腹に、明らかに画面に映っているレイヴァスの様子はおかしい。
『ヴァン、私を救ってほしい』
ヴァン? 誰だ? 俺の名前は江原番だ。 レイヴァスはカメラ目線で俺に呼びかけているようにも見える。
本来主人公に向かって喋るはずのレイヴァスがこちらに向かって喋っている。 いや、本来主人公に向けて喋っているのもおかしいか。
もうレイヴァスは死んでいるはずなのだ。 おかしい、やはりおかしい。 俺は何本もRPGをクリアしている。エンディングもかなり見てきた。
エンディングというものは、その後のキャラクターや世界がどうなったかを描くものだ。あまりにも脈絡がない。
『ヴァン、私は悪に染まりたくなかった。私を変えてくれ』
何を言っている? 救いのないバックグラウンドを抱えていたとはいえ、たくさんの罪のない人々を虐殺したのは事実だ。
今さら悪に染まりたくなかったは、都合がよすぎる。 どこかで引き返すこともできたはずだ。
でも、もう終わったことだ。 もうレイヴァスは死んだんだ。 そんな俺の想いを無視するように、レイヴァスは画面に映り続け、俺に言葉を投げかけ続けている。
『ヴァン、君と友達になりたかった』
勝手すぎる。 何が友達だ! 苦しんで死んでいった人たちの想いはどうなる? 燃え盛る村、地面に崩れ落ちている人々。
その人たちを一瞥もせず、罪悪感に苛まれる様子もなく、ただ当たり前のように立ち去っていく。
『ヴァン、私は変わってみせる。信じてくれ』
信じられるわけがない。 でも……でも……俺の心は激しく揺さぶられている。
怒り、憎しみ、不信感、懐疑心、虚無感、空虚な想いが俺の中で渦巻く。それでも……それでも……俺はレイヴァスに訊いてみたいことがある。
「レイヴァス、君は何を変えたいんだ」
『運命だ。必ず。必ず変えてみせる』
「君を助けられるとして、俺は何をしたらいい?」
俺は何を言っている? 意識とは別に口が動いている。
『こちらにきてほしい。この手を取って』
「ああ」
俺はなぜか彼の手を取ろうとしていた。 間違いなく拒絶して、彼に憎しみの言葉をぶつける気でいた。
俺は彼に同情しているのか? 本当に運命を変えて全部ハッピーエンド万歳ってなるのか? そのハッピーエンドって何だ? 何もわからないし、どうしたらいいかもわからない。
頭の中に想いが渦巻いているが、どうしても彼の差し出された手を拒否することができない。 自分の行動がコントロールできない。
TV画面からは光があふれ、俺を包み込む。
「お、おいおい。ほんとかよ……」
画面に体が吸い込まれていく。
『ありがとう、ヴァン。ともに運命を変えよう』
レイヴァスの言葉と同時に俺は完全に画面に飲み込まれるのであった。
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