月光の祝福

@e7764

第1話


列車が駅に着く。

看板は目的の町。

シルヴィは荷物を担いで列車を降りる。

駅の外は随分と殺風景だった。

枯れた草が脇に生えた土の道。

所々雪が積もっている。

王都と比べて寒い。

それもザラザラとした布か何かで肌を撫でられているような寒さだ。

北の地は寒いと聞いて適当に買った毛皮の防寒着だったが買って来て正解だった。

草の生えていない土の道を道なりに歩いていく。

目的の町の名前はシュリヒト。

そこまでは道なりに進めばいいと聞いた。

その言葉通りに歩いていく。

枯れた草木の続く代わり映えのしない道、歩き続けると先に建物が見えてきた。

一安心し、建物の方へ向かう。

道の先に町の入り口であるアーチ状の門の前に立つ。

想像していたより小さい町のようだ。

宿屋を探しながら歩いていく。

町の中心に一本通り道が通っていて、道沿いに建物が建っている。

民家がほとんどだろうが時々看板を掛けている建物が何かの店だろう。

通りががった人に宿屋の場所を聞いた。

すぐ近くだ、と教えられた脇道を進む。

緩やかな上り坂を進むと大きな建物が見える。

見つけた。

シルヴィは早速ドアを叩く。


「ごめんください。宿泊をしたいのだが」


受付の女性が慌てて立ち上がる。

歳は15、16歳くらいの赤毛を左右で束ねた愛想がよく可愛らしい女性だ。

この宿屋の娘だろう。


「は、はい。いらっしゃいませ!何泊でしょうか?」


「そうだな…。実はこの町の洞窟のような場所で素晴らしく綺麗な景色が見られると聞いて来たんだ。その景色が見られるまで滞在したい」


「そうですか、少しお待ちください」


そういうと女性は横の扉から奥に駆けていく。


「はいはい、お待ちなさいな」


連れられて来たのは細身の茶髪の少女だ。

髪の色こそ違うが顔立ちはどことなく似ている。


「えーと、洞窟の景色が見たいんですね?」


「ええ、その通りだ」


すると困ったような表情を浮かべる。


「その洞窟の景色というのが月明かりが穴に差し込むといった現象?のようなものなのですが見られるのは一年の内数日だけでして、近々その時期なのですがそれでも10日は先なんです」


10日、とシルヴィは呟いた。


「その景色というのはどれほど綺麗なんだ?」


「それはもう最高に!」


赤髪の少女の方が目を輝かせている。


「この上ないくらい幻想的なんです!町の人もみんな見に行くんですよ!絶対に後悔はさせません!」


少女の熱意にシルヴィはふふっと笑ってしまった。


「そこまで言うなら見られる日まで泊まらせてもらおう」


「ありがとうございます。ですが…」


「金なら問題ない」


シルヴィはどさりと金の入った袋をおく。


「でしたらごゆっくりお泊りください。部屋は一室以外空いています。どこかご希望はありますか?」


どこでもいい、と思ったが静かな方がいいと思い直して注文する。


「2階の一番奥の部屋は空いているか?」


「空いていますよ。鍵をお持ちしますね」


奥の部屋へと戻っていく。


赤髪の少女と二人きりになったシルヴィは再び洞窟の景色について尋ねた。


「そんなに洞窟の景色は素晴らしいのか?」


「ええ勿論!あの景色を見る度にこの町に生まれてよかったって本当に思うんですよ!」


胸の前で手を組み、頬を紅潮させて興奮しているようだ。


「なら今から楽しみだ」


話している間に茶髪の女性が鍵を持って戻ってくる。

シルヴィは礼を言って部屋へ向かおうとする。


「私、サーシャっていいます!何かあったらいつでも言ってください」


束ねた赤毛を揺らしながら威勢よく言う。


「シルヴィだ。よろしく頼む」


シルヴィも応える。

それから改めて自室へ向かった。

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