第2話 「治療」

この国に来てから数日のことだった。


王宮の広々とした病室で、私は白雪姫の側に腰を下ろした。窓からは柔らかな春の光が差し込み、部屋を温かく照らしていた。外では、庭園の花々が満開になり、蝶々が舞い、鳥たちの歌声が静かに響いていた。


重厚な木製のテーブルの上には、粗い布で包まれたハーブが並び、その緑が室内に生命の息吹を与える。小さな銅製の鍋に清らかな水を汲み、そこに選ばれたハーブを丁寧に投じる。火にかけられた鍋からは、やがて静かな音が立ち上がり、水面が小さな波紋を描き始める。熱がハーブの繊細な葉と茎を通り抜けると、そのエッセンスがゆっくりと水に溶け出し、色は深みを増し、香りは室内を温かく満たしていく。その煎じ液は、時の流れをゆっくりと感じさせるように、一滴一滴と穏やかに時間をかけて抽出され、自然の恵みをもたらす。


「これは何かしら」白雪姫が尋ねる。「あなたのお薬ですよ」


彼女はその言葉に眉をひそめる。私は気にせず調合を続けた。出来上がったそれを見て、私は満足する。窓からの風に乗ってハーブの匂いがする。朝露に濡れた森林を思わせる爽やかさと、古代の庭園から吹き抜ける芳醇な香りが交じり合い、空間を満たす。ハーブの本質が煎じ液に溶け込むと、その香りはさらに深みを増し、暖炉の火が織りなす微かな煙と混ざり合う。

静かな森の中で深呼吸をするような感覚。心身ともに穏やかな安らぎを与えてくれる。けれどそれは私にとってだ。見知らぬ人からしたら毒とも薬とも取れるのだろう。

「まずはあなたが飲んでくれますか」白雪姫のその言葉に「はい」と私は答えて、煎じた薬を飲む。目を見開いて驚く彼女だったが、気にせずに私は続ける。


味に関しては、その最初の一口は、微妙な苦味とともに舌を刺激し、次に豊かな旨味が広がる。その後味には、甘美な余韻が残り、心の奥深くに落ち着きと平穏をもたらす。「お母様、よくそんなものを飲めますね」

この子はいったい人が作ったものを何だと思っているのか。

あまりにもな言い方に、目つきも鋭くなる。

「大変失礼ながら、これ作るのも大変なのをご理解いただけてますか」自らの作品を貶されたようで、つい言葉に怒気が含まれてしまった。

私の気迫に押されたのか、わかったわ、と。諦めたように彼女が飲む。震える指先。目を閉じて嚥下する。そして煎じ液を入れたカップを見る。


飲み干したのだから、当然、中は空っぽになっていた。だが白雪姫はそれが信じられない、といったようだった。意外な顔をして、私を見る。「美味しいわ」ふふん、と私は胸を張る。


「どうかしら、お気に召して?」


そのハーブは効果はもちろん、飲みやすくするために味にもこだわって作ったのだ。当然だろう。その手間に思いを馳せたのだろう。彼女のその瞳には以前よりも信頼の色が灯っていた。「ありがとう、お母様。あなたがいてくれて本当に嬉しいわ」


ギュッと抱きしめてくる彼女を受け止めて、私はよろける。「それは私の方こそよ」私の言葉に彼女は笑う。

何が嬉しいのか、彼女はその純白のドレスが風になびきながら、まるで舞い踊るように私のそばを駆け回る。その声は鳥の歌のように明るく、その笑顔は日の光のように私の心を温めた。平和だった。そしてこの時間がいつまでも続くように、と。私は思う。

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