第24話 村人達の困惑

「ゆかりちゃんの偉いお客様って誰だろうねぇ。粗相が無いといいんだけど」


村唯一の甘味処、団子屋のおばあちゃんは暖簾のれんをしまいながらつぶやいた。


今日はゆかりが大量に買い物をしてくれたおかげで、売り切れ続出となり早々に店を閉めてのんびりできそうだ。


「ほんと助かるよ。いつも村の中だけでお金使ってくれるからねぇ。

でもせっかくあげたお賽銭が全部戻ってきちゃうねぇ」


おばあちゃんはお茶をすすりながらしみじみとつぶやいた。


「ほんと、いい神様がきてくれたよ」




 話の出所でどころは村長の奥さんからだった。


村に一つしか無いパーマ屋で話した、山の神神社に神様が降りたというヨタ話は、時間とともに信憑性が上がっていった。


五十年続けているパーマ屋の女主人は、村長の奥さん以上にスピーカーだった。


そのあと例大祭がおこなわれる頃には、村の誰もが神がかり的な神社の復興に神の存在を認めざるを得なかった。


村に祭りが帰ってきた喜びは、特に老人世代に多かったようだ。

その話は近隣老人ネットワークにより大きな尾ひれが付いて益々広まった。


そして、例大祭当日に村長の奥さんが出会ったという、神様が普段着で祭りに来ていて青年会の皆と酒を飲んでいたという話。


さすがに村長の奥さんの正気を疑う者もいた。

もしかして変な宗教でも始めるつもりなのではと言う人もいたぐらいだ。


ところがたたみ掛けるように御山を傷つけようとした村長の失脚、青木さんとこの無職だった息子さんが御山で大発見。

しかも大発見は神様のお告げときたもので、これはほんとうに神様が降りたのでは? 


人の姿をして村に出歩いているのではないかと思う人が増えていった。


また最近、街から来たと言う若い娘さんが団子屋でお菓子を買い、酒屋で大量の酒を買う姿が度々見られるようになり、どこの娘だろうと噂になっていた。

綺麗な顔立ちではあるが、街の娘にしてはお菊人形のように和風。

村人と挨拶を欠かさず、見かけによらず社交的で、なにより村人の事をよく知っている。


”こんにちは。なくし物は見つかりましたか?”


挨拶がてら、このように問われた村人は、ゆかりとは初対面だった。


酒屋では、ボディガードのような男が荷物運びをしていることもあり、街のお嬢様が村にお忍びで買いものに……、いやいや、それはありえないと、狭い村の噂第一位となっていたのだ。


あるとき、酒と肴を買ったゆかりが白蛇山神社に歩いてゆく姿が目撃された。

すぐに宮司は質問攻めに遭った。


しかし、宮司もわけがわからない。年頃の息子はいるが、若い娘に心当たりなどは無い。

唯一あるとすれば、夢で出会う神様……。


ゆかりはうかつだった。

社会人としての経験は長いが、神としては新入社員だった。

すなわち、神としての自覚が無い。


お店で買いものができると知ってから、生きている時と同じ、普段通りの行動を取っていたのだ。


コンビニがあれば常連になっていただろう。


宮司から不思議な話としてその目撃情報を聞いた現村長の奥さんは、このままではなにか問題が起きるかもしれないと緊急の村議会を開いた。


『極秘!白蛇山大神さま対策会議』


そして、「ゆかりちゃんが神様だと誰も気づいていないことにする」と決議された。


そんなことはつゆ知らず、今日もビールを買いに行くゆかりだった。

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