アイと暮らす日々。
タカナシ トーヤ
第1話 離婚
「今週末、結婚記念日のお祝いで旅行する約束だったでしょ!?どうして今更キャンセルなの!?3日前だから、キャンセル料も全額かかるのよ!信じらんない!!なにが急な仕事よ!!」
「仕方ねぇだろ、急に出張が入ったんだ。いい歳して、ギャーギャー喚くなよ。うっとおしい。」
もう妻のヒステリーにはうんざりだ。
5年耐えてきた結婚生活。
妻が家事をしないのも、仕事一筋で家のことをやらない俺のせい
妻が浮気するのも、夜の相手をしてやらない俺のせい
子どもができないのも、妻に勃たない俺のせい。
全部俺のせい。
と、妻は言う。
「もういいよ、離婚しよう。」
俺は長年口の先まで出かかっては止めていたセリフをついに口にした。
「あぁ、そう。結構よ。じゃあ、夫婦で今まで築いてきた分の財産分与と、離婚を切り出された精神的苦痛の慰謝料はしっかり受け取らせていただきますからね。詳しくは公証役場にて話し合いさせて頂きます。あと、あなたは転勤があるから、この家は私の財産という前提で話を進めさせていただきますから。」
俺から離婚を切り出されるのを今か今かと待ちわびていたような妻の切り返し。
なにが精神的苦痛の慰謝料だ。
目の前には俺の署名部分だけが空欄になった離婚届が置かれている。
もうどうすることもできない。
俺はその一枚の紙切れにサインをした。
俺だって、こんな女と一生過ごすのはごめんだ。
妻は俺のへそくりを全部調べ上げ、銀行別の財産一覧をExcelの表にまとめたものを提示した。
「離婚日は3ヶ月後の3/31とします。それまで私はビジネスホテルで過ごしますので、前日までに全ての荷物を引き払ってください。ちなみに、ビジネスホテル代は、婚姻中の費用になりますので、あなたに支払い義務があります。離婚一週間前の3月24日までに、財産分与と慰謝料の全額を、振り込み手数料を含めて全て私名義の銀行にお振込みください。以上です。約束が守られない場合、裁判所を通しますんで。」
そういって妻は、離婚の協議書のようなものを机においた。
「ここに書いてあることに意義があれば、裁判所で争いますから。以上。」
「どうでもいいよ。全部持ってけ。意義なし。」
俺は書面を妻に返した。
争いごとはごめんだ。
はぁ。女なんてこりごりだ。
二度と結婚なんてするもんか。
別に不倫したわけでもない。
仕事にかまけて、妻の夜の相手をしなかったのがことの始まりだ。
もういい。
俺は新しい人生を歩む。
俺は酒とつまみのゴミだらけでぐちゃぐちゃになった自分の部屋の荷物を、昨日届いた焼酎のダンボールに詰め始めた。
—あぁ、癒しが欲しい。
俺を癒してくれるものはなんだろう。
俺はカーテン越しの窓の外の、晴れた青空を見上げ、ため息をついた。
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