第6話 紹介したい相手

授業が終わった後、中庭にテーブルが置かれている場所があるので、

そこに来てほしいという内容だった。ディアナに会わせたい人がいるんだと。


とにかく行ってみればわかるかと思い、授業が終わった後で中庭に向かってみる。

一度も行ったことがなかったが、中庭は食堂やカフェテリアから見える場所にあった。


令嬢たちがお茶会をしているのか、少し騒がしい。

エラルドはどこだろうかと探していたら、名前を呼ばれた。


「ディアナ、こっちだよ」


「え?」


呼ばれて振り返ったら、エラルドは令嬢三人と一緒のテーブルにいた。

六人が座れる大きさのテーブルに、四人でお茶をしていたようだ。


「久しぶりだね」


「ええ。元気そうで良かったわ」


エラルドの背はそれほど伸びなかったのか、私よりも少し上くらいだろうか。

それでも普通の令嬢よりかは背が高い。

すらりとした体型のエラルドは昔とは違ってうつむいていなかった。


薄茶色の髪が日に透けて、キラキラと見える。

綺麗な顔立ちはそのまま成長したらしく、まるで王子様のように見える。

それはいいのだけど、その隣には令嬢が座っている。


そして、誰も席から立って挨拶する気はないようだ。


「紹介するよ、僕の幼馴染の三人だ」


「幼馴染?」


そんな存在がいたのは知らなかった。

まぁ、手紙でやり取りしていたわけじゃないし、

カファロ領にいたのは数週間のことだ。

知らないことがあっても不思議ではない。


一人ずつエラルドが紹介すると、ぺこりと頭を下げる。

立ち上がって礼をする気はないようなので、こちらも軽く頭を下げるだけにする。


一人目は、王都の屋敷が隣り合っているアダーニ伯爵家のジャンナ様。

エラルドと同じような薄茶髪にはっきりとした二重の青目。


次に、ブリアヌ侯爵家で働いている侍女の娘、子爵令嬢のエルマ様。

こちらは貴族ではめずらしい赤茶髪に茶目。


そして、ブリアヌ侯爵夫人の妹の子、伯爵令嬢のラーラ様。

茶色の髪に、エラルドと同じ緑目。

目の色が同じだけでなく、従兄弟だからか顔立ちも似ている。


三人とも背が低く、まるで小動物のような印象だ。

可愛らしく大きなリボンを髪につけて、

制服にはレースやブローチがつけられている。

これって違反じゃないのかしらと思いながらも、エラルドの話を聞く。


カファロ領地から王都に戻った後、

この三人と一緒に家庭教師について学んでいたという。


「すごく厳しい女の先生だったんだ。

 この三人が一緒じゃなかったら、耐えられなかったかもしれない。

 今も同じ教室なんだよ」


「そう、同じ教室なの」


全員がD教室らしい。基本から学び直すための教室。

それって、家庭教師の厳しさに耐えられてなかったんじゃと思いつつ、

わざわざ言う必要もないかと黙る。


楽しそうなエラルド様とは違い、令嬢三人の目は冷たい。

微笑んでいるけれど、私のことを見定めてやろうという感じがする。

嫌な感じだなと思うが、幼馴染として心配する気持ちはわからないでもない。


「ほら、ディアナも座って一緒にお茶しようよ」


「一緒に?」


空いている左隣に座るように言われるが、見てしまった。

右隣にいるジャンナ様がエラルドの太ももに手を乗せているのを。


令嬢三人に囲まれてお茶しているのもどうかと思うけど、

婚約者でもない令嬢にさわられて何も言わないのはどうなんだろう。


「ふふふ。ディアナ様って、エラルドの婚約者なんでしょう?」


「ええ、そうよ」


エラルドの向かい側に座るラーラ様が、ねっとりとした話し方で聞いてくる。

ラーラ様はエラルドの従兄弟だからか、呼び捨てにしているらしい。


「じゃあ、エラルドの隣に座っても許してあげる」


「は?」


あまりのことに固まっていると、ジャンナ様もにっこり笑う。


「仕方ないですわね。エラルド様の婚約者なのでは。

 特別ですわよ?いつもは三人で交代してエラルド様の隣に座っているの」


「はぁ」


言い返さないのを確認したからか、

一番身分の低いエルマ様も笑いかけてくる。


「今後はディアナ様も入れて、五人で仲良くしましょうね」


「……はぁ」


エラルドの幼馴染なのはわかったけれど、私が仲良くする理由はなんだろう。

しかも、私がいてもエラルドの隣には必ず誰か令嬢が座るらしい。


「悪いけど、一緒にお茶を飲む時間はないの」


「え?どうして?」


「これから学生会の仕事があるのよ」


A教室の者は学生会に入るのが決められている。

今日はこれから顔合わせがあると言われた。

エラルドから手紙が来たのは今日の昼なのに、この時間が指定されていた。

予定を変えてとお願いすることもできず、とりあえず顔を出しに来たのだ。


「学生会……って、なに?」


「わからないわ」


「私も知らない」


「ディアナ様、何をするところなの?」


「私もこれから顔合わせだから詳しくはわからないけれど、

 今後もお茶するような時間を取るのは難しいと思うわ」


「ええ?そんなぁ」


がっかりしているのはエラルドだけ。

他の三人はうれしそうな顔をしてから、残念だわと言った。


「じゃあ、行くけれど。

 エラルド、令嬢との距離はもう少し離れたほうがいいと思うわ」


「……何を怒っているの?」


「怒っていないわ。それじゃあ」


どうして注意されたかわからないエラルドはきょとんとした顔になる。

こうして話している間も隣にはべったりとくっついたままの令嬢がいて、

どうして注意されないと思っているのだろう。


ため息をつきながら学生会の部屋に入ろうとしたら、後ろから声がした。


「なぁ、ディアナ。もしかして、あれが婚約者なのか?」


「アルフレード様、エルネスト様。見ていたんですか?」


「ごめんな、ディアナ嬢。のぞき見してたわけじゃない、ちょうど通りかかって。

 というか、あの場所は目立つ。みんな、見ていたと思うぞ」


「ですよねぇ……」


頭が痛い。エラルドの評判が落ちれば、婿入りしてくるカファロ家の評判も落ちる。

これはお父様かお祖父様に相談するべきなのだろうか。


「……困ったことがあれば言ってくれよ。

 同じA教室の者として、手を貸してやりたい」


「ええ、ありがとうございます。困った時はお願いします」


まだ学園は始まったばかり。

あと三年のうちにC教室に上がってもらって、

あの幼馴染たちとは離れてもらわなくてはいけない。


普通に説明して納得してくれるのか、考えただけでめまいがしそうだった。


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