魔法少女ぐらたん
Yorimi2
ドルチェル編
# 0 プロローグ
ドルチェル王国にある町ハッカタウン。毎年秋にやって来る収穫祭に備えて町が装飾されている。
この町でそこそこ話題の喫茶店「ノグラカフェ」。
少年ネビロスは収穫祭の準備で期間限定のスイーツを作っていた。
バリスタとしての腕はあまりよくないが、話題となっているのはパテシエとしての腕である。今年もこの収穫祭で押し寄せる客に備えて、ネビロスはお菓子作りに励むのであった。
「かぼちゃの風味がきついな…まあ少し抑えるか」
カボチャクリームを味見する。タルトにもかぼちゃが練りこまれているため主張が強そうだ。
「クリームは一番上だな。チョコレートとマーマレードの割合を多めにしよう・・・」
ボールに溶かしたチョコレートを入れてかき混ぜる。忙しくなってきたところに、エントランスのドアベルが鳴り響く音が聞こえた。使い魔のぐらたんが帰ってきたのだろうか?
ネビロスは作業を中断して厨房から出てくると、店内のホールに入ってきたのは使い魔ではなかった。
入ってきたのはワタノ地方の者だろうか、それにしても古臭い市女笠を被っていて顔の様子がわからない。紫色の打掛を羽織っており、裾から大きな長い尻尾がはみ出ている。仮装しているのだろうか? 動いているし、尻尾は本物のようだ。
「トリックオアトリートなのじゃ!」
市女笠を被った女性からお菓子をねだる合言葉が出てきた。
「あ・・・。悪いが収穫祭は明日だ。それに今日はもう閉店なんだ。明日改めて来てくれないか? それとも・・・悪霊退治の依頼の方かい? それなら引き受けるが?」
パテシエとしてのネビロス。それはあくまで表向きで、悪霊退治を担う死神が彼のもう一つの顔だ。
ネビロスは帰るように促したが念のため、除霊関連の依頼があるのか聞いた。
「ほう・・・妾にくれる物はないと。それならばイタズラタイムじゃ!」
彼女は両手を前に伸ばすと、光が溢れてネビロスを覆う。
「うわっ!」
光が治まり、気が付くと市女笠の女が巨大になっていた。驚きが隠せないまま彼女を見上げる。なぜか店の中が広くなっているように感じる。そして体が浮いた感じがして平衡感覚がない。
「な、なに!?」
「ぬふふふ。久しぶりに使ったが・・・・・・まだまだいけるものじゃな! ソナタを封印して、水晶玉に閉じ込めたのじゃ」
彼女の足元には水晶玉が転がっていた。その水晶の中にネビロスが入っている。
市女笠の女は水晶玉を手に取る。
「ぬふふ。別にお菓子が欲しいわけではない! 最初っからソナタが目当てなのじゃ。私の野望を叶えるためにな・・・死神ネビロス」
邪悪な笑みを浮かべ、小さくなった少年をその金色の瞳で見つめる。
「どうして僕の名を!? 野望とはなんだ!?」
彼女は笑顔で黙ったまま。
すると、背後からもう一人黒装束の少女が現れた。赤黒いフードを被っており、そこから触覚のようなのが飛び出している。右手には身の丈ほどの大鎌が握られていた。
「お前は…?」
同じく死神だろうか。
死神の少女が市女笠の女に話しかける。
「レヴィアタン様よ。うまくいったじゃねーかっ!」
邪龍レヴィアタン!? このヘンテコなのが!?
邪龍レヴィアタン。
冥海と現世の海の境にある海底に封印されていたが、数十年ほど前に封印を解き復活した邪龍のことだ。予言で厄災を呼ぶ邪龍とも呼ばれている。天界につながるという干支十二国を海の底に沈めたということで完全に人間界と天界との連絡を断絶させ、人々を恐怖に陥れた。
そのレヴィアタンと呼ばれた市女笠の女は死神の少女のほうに向く。
「船虫か。この少年が本当に妾の望みを叶えてくれるのか?」
「ひひひひひっ! それは試してみねーとなぁ。でも確信はありやすぜ! なんたってコイツは、死者をよみがえらせる秘法を知っているからな。ほかにも魔界にすら無い未知の黒魔術もいろいろ・・・」
超黒魔術。魔界が最先端の魔術をほこり、人間界じゃ解析できない魔術。それが黒魔術。そしてさらに、魔界ですらまだ解明できていないマナ粒子の特性を利用した技術。それが超黒魔術である。
「よみがえらせる秘法だって? ・・・馬鹿な、そんなの知らないぞ! そもそも現実的に不可能だ」
いたずらな笑みを浮かべレヴィアタンは水晶玉を振りだした。ネビロスは洗濯機に入れられたようにぐるぐると回る。
「うおっ!!? と、とめろ~!!」
不思議な感覚で、世界が回っているようだ。しかし、自身は回っていないように見えて目が回る。吐き気がする。
「ぬふふふふ。だからこれからソナタのことをじっくりと調べる。ソナタの魂にその術が記憶されているのじゃから」
レヴィアタンは手を止める。水晶内の回転は慣性でまだ回り続ける。
知っている? 僕が・・・
水晶内の渦の中で、自分に対して疑問が生まれた。
「よし。妾は先に戻る・・・」
レヴィアタンは厨房にあるお菓子を横目に、
「船虫は、この町のお菓子でもかき集めるのじゃ!」
その言葉に船虫は吹き出す。
「へっ! やっぱり欲しいんじゃねーか!! あいよ! ついでにアクムーンを実戦で試してみるわっ」
「好きにするがよい」
レヴィアタンは札を取り出すと、渦巻く円形の異空間ゲートを開いた。その中に彼女は入っていった。その後ゲートは間もなく閉じた。
厨房に入ってお菓子をつまみ食いし、船虫は懐から紫色で三日月状の結晶体を取り出した。
咀嚼しながら、その結晶体を上に掲げる。
「さて、おっぱじめるか! 出番だアクムーンビースト!!」
三日月の結晶体は禍々しく輝きだす。
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