魔界
1話 魔界で追いかけっこ
昔とある王国にお転婆な姫様がいたそうな。何やかんやあってその姫様は魔界へ行ってしまった。
もし彼女が今も生きていれば、10代半ば頃だろうか――。
「ええい! すばしっこいデスね! 待ちなさい小娘!」
ここは魔界。魔族や魔物といった人間ではない生物が跋扈している世にも恐ろしい場所――と思いきや、そうでもなかった。
今日も魔王城は平和そのものであった。
魔王アモンは玉座でぼーとしては時おり窓から外の景色を眺めている。
部下の一人はツッコミの練習をし、また別の者は料理のレシピ本を見ていた。魔界の人たちもわりとのほほんとしている。
ただ一人の男を除いては皆自分の時間を堪能していた……。
「ワタシの腕時計を返しなさい! それはブランド物で高かったんデスよ!」
現在城内で追いかけっこしているのはウヴァルという、魔王アモンの部下の一人だった。若干片言の喋り方が特徴で、ピシッと青いスーツに身を包んだオシャレ好きな男である。
一方追いかけられているのは、紫色のくせ毛とそばかすが特徴の少女リーゼだった。だが彼女は人間であり、その正体は人間界から来た姫――そう、リーゼロッテ姫だった。
「ウヴァルさんの腕時計、とてもおしゃれね!」
リーゼは腕時計を片手に城内を駆け回っていたがまだ元気がある様子。
一方ウヴァルは息を切らせながら、「ちょ……待っ……」とヨタヨタ歩いている。使用人たちはその様子を見ては苦笑いしていた。
「それを返しなさい! 何故取るのデス!」
「ウヴァルさん、この間時計見せてくれるって言ったのに、ちっとも見せてくれないもん」
「だからって、人が掃除している最中に時計を盗む馬鹿がいますカ!」
「盗んでないわ!」
「いいえ、盗んでマス!」
ぎゃあぎゃあと二人で騒いでいると、どこからかハリセンが飛んできた。それはウヴァルの頭に当たり床に落ちた。
「だめですね……ツッコミが足りません」
ウヴァルとリーゼが飛んできた方を見ると、そこには魔王の部下の一人セエレが立っていた。
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