『第六話 決意』じゃ

 

 オレの人生は、前世からクソだった。


 三人兄弟の末っ子に生まれた。家はわりと裕福な方だった。

 二人の兄貴もオレも小さい頃から塾に入れられていた。

 でも、兄貴たちは成績優秀だったけど、オレだけなぜか勉強ができなかった。


 兄貴たちと同じように育ったのに。

 親はオレが頑張ってないからだと思ったらしく、あの手この手でオレを引き上げようとした。

 でもそもそもオレは、その「頑張る」ということができなかった。


 なんでかわからないけど、サボっていたと言われればそれまでなんだけど、オレは努力とかがまったく続かないたちだった。


 勉強ができないなら運動ならできるかと言えばそんなこともなく、親はオレをどう育てていいかわからなくなったみたいだった。

 だからやがて、オレを見るのをやめた。


 高校は偏差値の中の下程度の公立校に入った。

 これでもオレとしては頑張った方だった。

 親はオレを私立に行かせたかったみたいだが、頭のいい奴らと一緒にまた3年過ごすなんてゴメンだった。


 思いもしなかったんだ。

 まさか同級生で、県内有数の不良集団が入ってくるなんて。

 オレは入学初日から当然のようにボコボコにされた。

 下手に反骨心出したのが良くなかった。逆らってはいけない奴らに逆らって、一瞬でロックオンされた。

 いじめとかいうレベルじゃない目にあわされた。


 だから高校にもすぐに行かなくなった。

 親は理由すら聞いてこなかった。

 オレも、なにも言わなかった。

 オレは家にいるのは気まずくて、友達の家でゲームしたり、あてもなく外をブラブラしたりしていた。

 余りに暇だったので、勝手に近所の神社の掃除とかしてたくらいだった。



 オレは昔から掃除だけは好きだった。

 得意と言うほど他人となにかが違うというわけではなかったけど、

 なんていうか、それをしている間は他の一切を忘れて集中することができた。


 学校じゃ休み時間になっても、皆が自由に動く中ひとりだけまだ雑巾がけしてたりしたから、

 傍目には異常だったかもしれない。


 まあ、別に何の役にも立たないことだったが……。


 その近所の神社は神主とかもいないようで、酷く荒れ果てていた。

 オレは特に意味もなく毎日のようにそこに通い、掃除をして――。


 その神社がまっさら綺麗になった日。


 帰り道、たまたまトラックに轢かれて死んだ。



『よかったなクスロウ!』

『合格、おめでとう』



 死に際――――ひとつだけ後悔したのは、高校受験の時つきっきりで勉強を教えてくれた兄貴たちに、謝れなかったことだった。


 高校、勝手にやめてゴメン――――。



 そして、気づいたらこの世界にいた。



 死んだ時着てた学ランのまま。

 森をさまよって、たまたま見つけた剣を抜いて、魔物に襲われてる女の子を助けた。

 そしたらその女の子がたまたま王女で、抜いた剣がたまたま実は伝説の剣で、オレは国王に感謝され、勇者に任命されることに。



 その後は、知っての通りだ。


「オレは……」


 オレは女神コン様にタマキンを蹴られまくり、地面にへたりこんでいた。


 あ~~……。

 なにも変わってねえなあ。


 オレは、この世界に来て、変われたと思ってた。

 でも実際は、他人にもらったチートで調子に乗って、遊び呆けて、嘘をついて、人を見下して蹴落として……。

 結局、結婚しようとしてくれた人も、裏切った。


 あの時見たリアーナの涙だけは、いくら酒を飲んでも忘れられない。


 オレはまた一番大切な人を裏切ったんだ。

 前世の兄貴たちと同じように。


 転生して、チートを手に入れても、中身はなにも変わっちゃいない。



 ……でも……


 それでも……


 こんな……こんなオレでも、まだ、マトモな人間になれるのか?

 本当の勇者に……

 なれるのか?


 コン様を見上げる。すると彼女はその心を見透かしたかのように、


「なれる!」


 と言った。


「安心せい。クスロウがまた自堕落に戻りそうになったら、その度にワシがまたお仕置してやる」


「…………なんで……そこまで、してくれるんだ? ……初対面だろ?」


 オレなんかのために。

 なんで。

 思わずそう聞いた。


「ふん、ヌシからすればそうかもしれんな。じゃがわしはずっとヌシを見ておったぞ」


「え……?」


「ヌシが、いつもわしの住処を綺麗にしてくれておる姿をな」


 コン様は、優しい声で言い聞かせるように言った。

 一瞬なんのことかわからなかったが……。


 そうか。

 あの神社……。

 コン様がいた場所だったのか。


「わしは見ておったぞ。わしは知っておる。クスロウは、本当はいい子じゃ」


 そう言って、コン様はオレの頭を撫でた。

 涙を堪えられなかった。


 なんだよこれ……なんなんだ……。

 さっきまでキンタマ蹴られてたのに。

 いま、こんな無茶苦茶な幼女に褒められてめちゃくちゃ嬉しいなんて……。


「…………」


 オレは拳を握った。


「…………やります。やらせてください。その、更生プログラム」


 この時、決意した。

 オレは今日からマトモになる。クズじゃない本当の勇者になる。

 復活した魔王も倒してやる。

 自分の力で。


 そして、もう一度リアーナに会って、今度こそ謝るんだ。


 するとニヤとコン様は笑った。


「よいぞよいぞ! その意気じゃ!」


「まず……何をすればいいんですか?」


「うむ。ではさっそくじゃな……」



 コン様が指をパチンと鳴らす。

 その瞬間、オレは見知らぬ森の中にいた。



「あいつを倒してもらう」

「え?」



「グォォォオオオオオ!!」


 振り向くとそこに魔物がいた。

 黒い巨大なクマのような魔物。オレの数倍はデカい高さから見下ろしてくる。



「もちろん、チートは無しでな♪」


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