第44話 僅かな予定外


 流行と言われるだけあって、プリン専門店には列ができていた。

 このお店は屋台店で、先程の店のように食べるスペースというものがない。持ち帰り用の予約はできるのだが、その場で食べるとなると並ばないといけないのだ。


 そのため並ぶことが苦手な者は持ち帰りを選択し、そうでない者は並ぶ形になっている。今日は二人で出かけていたため、予約は取らなかった。


「ギデオン様。並ぶ形でもよいですか?」


「もちろんです」


 ギデオン様から了承を得ると、私達は最後尾に並んだ。


 下調べでは人気ではあるものの、ここまで並んでいるという情報は得られなかったので、列は予想外だった。


(並ばせてしまって申し訳ないな……私は並ぶのは嫌いじゃないし、その時間も楽しめるんだが、ギデオン様がそうとは限らない)


 私の中の計画では、プリン専門店で〝並ぶ〟というものは入っていなかった。予定外の動きに不安を募らせていると、ギデオン様から明るい声が漏れた。


「……いいですね、こういう風に並ぶのは」


「苦手ではないですか?」


「全く」


 即座に首を横に振った姿を見て、私の中の不安が薄まっていく。


「……実は、ずっと並んでみたいと思っていたんです。王都にある流行のお店はいつ見ても、どこも長蛇の列でしたので。もちろん持ち帰りを選んで食べた経験もありますが、こうやって並んでみることにも少し憧れがありまして」


 恥ずかしそうに、どこか照れた様子の声で語るギデオン様に、私の鼓動が大きく動いた。


(並んでみたかったギデオン様……何だか可愛いな)


 抱いていた不安が木端微塵に消え去るほど、ギデオン様の言葉には力があった。


「変な話ですよね」


 ギデオン様の言葉に衝撃を受けている内に、彼は苦笑いを浮かべていた。そんなことはないので、即座に否定する。


「どこも変ではないですよ。確かに持ち帰れる上に予約が取れるのなら、基本的には効率的な道を選びますから。でも普段しないことって気になるものだと思います。特に流行のお店に並んでいる方々って楽しそうに待っているから、その分憧れても何もおかしくないかと」


 本音を言うと、憧れを抱いていたのが可愛いと思ったのだが、これは私の胸の内に留めておくことにした。


「あ、ありがとうございます……」


 ギデオン様は驚きながらも口元が緩んでいた。先程の影響があってか、その笑みも可愛いと感じるのだった。


 とにかくギデオン様が並ぶことに対して否定的な意見を一切持っていないようで、私は

安堵の息を吐いた。その後は、注文ができるまでプリンについて語っていた。




 少し経つと、順番がやってきて塩キャラメルプリンを手にすることができた。店内がないものの、近くには噴水がある。その周囲にはベンチが設置してあるため、私達はベンチへ向かった。


「あ。ギデオン様、一瞬持っていただいても?」


「もちろんです」


今日は私が主導の一日なので、気遣いを細部にまで行き届くよう勉強をしたのだ。本の中には、ベンチなどに屋外で座る時は相手の位置にハンカチを敷くとあった。

 空いているベンチの前に立つと、私はギデオン様にプリンを預けて自身のポケットからハンカチを取り出した。ギデオン様の座る場所にさっと敷くと、プリンを受け取った。


「どうぞお座りください」


 ギデオン様の方を見れば、彼は目を見開いて固まっていた。しかしすぐに小さな笑みを浮かべた。


「ありがとうございます、アンジェリカ嬢。では私も」


 そう言うとプリンを預けられ、今度はギデオン様が私の方にハンカチを敷いてくれた。気遣いを返してもらったとわかると、私は素直にお礼を告げた。


「ありがとうございます、ギデオン様」


「私の方こそ。……ただ、アンジェリカ嬢のハンカチを下敷きにするのは申し訳ないのですが」


「ご安心ください。こちら、敷く用のハンカチなので」


「まさかご用意されたのですか?」


「はい。ピクニックができるようなシートと悩んだのですが、今日のバックはそこまで大きくないのでハンカチを選びました」


「なるほど……それなら」


 だから心置きなく座ってください。そう告げても、ギデオン様からは少し戸惑いを感じたが、何とか座ってもらえた。二人で座ると、そのままプリンを食べるのだった。

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