Curtain falls


 一人雪の道をスキップしながら歩く、白いローブの女は確信していた。

 リディア・セルティアは死んだ。深く深く背中を斬り裂いたのだから、長くは持たないだろう。ということはやっとシナリオ通りになったということだ。

 本来ならばダイアウルフに襲われた公爵の血が、古代竜ニヒュムの召喚に使われるのだが、まあいい。公爵はニヒュム戦で大怪我を負えばそれでいいのだ。

(それを癒すために私が姿を現す)

 聖女としての力を発揮するのだ。

 何しろ私はこの物語のヒロインなのだ。聖女として目覚めた力を使い彼を癒し、世界が私に跪く。公爵閣下とのラブロマンスもいいが、元々ヒロインには別の道が用意されていた。

 そう。

 王太子殿下との恋物語だ。

(あの話のヒロインはリアージュを選んだけれど、私は違うわ)

 せっかく物語のヒロインに生まれ変わったのだから贅沢に生きたい。そう……前世では絶対に無理だった王妃になるのだ。

 うふふふふ、と女は楽しそうに笑う。やっと自分が世界を回す時が来た。全員が自分の前にひれ伏すのだ。

 雪の大地を踏みしめ、女は歩いていく。





 だが彼女は知らない。

 リディア・セルティアは死なず、古代竜も現れず、すでに事件に幕が下ろされたことを……。

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