12

 白瀬薺は道路の横の歩道を早足で移動をしながら、『自分の体に起こった異変』に気がつき始めていた。

 私は、ずっとあなたを探していた気がする。(……私は、ずっとあなたを求めていた気がする)

 白瀬薺は、あの日、……本当は自分に傘をくれた森野芹くんに言っておきたい大切な言葉があった。

 ……でも、薺は、そのころはまだ子供で、その言葉を言えないままで、時間だけが経ってしまって、その大切な言葉を、きちんと伝えることができなかった。

 芹くん。

 森野芹くん。

 薺は歩道の途中で立ち止まって、自分の額に手を当てて、なにかを必死に、その場所に止めようと努力をしている。 

 自分の思いを言葉にしたい。

 ……薺の記憶がだんだんとぼんやりとしていく。

 私の中から、森野くんのことが、私の森野くんへの思いが、……愛が、失われていく。

 薺はすがるような気持ちでコートのポケットの中にしまってある森野くんからの手紙を取り出そうとする。

 その手紙を取り出す薺の手は小さく震えている。

「あ、」

 薺が手紙を取り出すと、まるでそのときを待っていたかのようにして、強い風が吹いて、その手紙をどこか遠いところまで、運んで行ってしまった。

「待って!」

 手を必死で伸ばしながら、薺は言う。

 しかし、風が止んではくれなかった。

 でも、それは悪いことばかりではなかった。なぜなら、その手紙が飛んで行った先に、薺の視界の遠くに、少し先にある道路にかかった歩道橋の上にいる、森野芹くんの姿を見つけることができたからだった。

 森野くん。

 ……森野くんだ。

 そう思って、薺はずきずきとする頭を押さえながら移動をする。

 忘れちゃだめ。

 忘れちゃだめ。

 忘れちゃだめ。

 ……絶対に忘れてはだめ。

 そう自分自身に強く言い聞かせる。

 そのまま、薺はかんかんと勢いよく、歩道橋の階段を登り切った。

「森野くん!!」

 そこから、白瀬薺は大声で、そう森野芹の名前を呼んだ。

 すると、突然名前を呼ばれたことで、驚いた顔をして、森野芹がゆっくりと、白瀬薺をほうを振り向いた。

 そして二人は、……再会をした。

 それと同時に、空から冷たい白い雪が降り始める。それは、今年初めてこの町に降る、……真っ白な初雪だった。

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