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「……どうして、泣いているの?」
薺を見て、そんなことをその男の子は言った。
薺は、(みんなにも、……自分にも)ずっと隠していた涙を、……自分が泣いているところを、初めて自分と同年代の男の子に見られて(その男の子は、あまり見ない顔をしていて、薺のクラスの男の子ではなかったけれど、その見た目や背丈、小学校の学校帰りの持ち物や格好などから、自分と同じ小学校の生徒だと薺は思った。それもきっと、薺と同じ小学五年生だと思う。……なんとなくだけど、学年集合の時間や朝礼の時間などの間に、学校の校舎のどこかで、その男の子のことを見た覚えがあった)すごく恥ずかしくなった。
「……なんでもない」
泣きながら、薺は言った。
「あっち行ってよ」
これ以上、泣いている自分を見られたくなかったので、薺は男の子にそう言った。でも、男の子はそこから動こうとはしなかった。
傘をさして(……確か、黄色の傘、だったと思う)強い雨の降る中で、びしょ濡れになった薺のことをじっと見ていた。
薺はそんな男の子のことを見て、この男の子も意地悪だ。きっと、私のことをいじめて楽しんでいるんだ。……あとで、あいつ、雨の中で泣いてたぜ、とか言って、私のことを笑い者にするんだ、と思って、薺はまた、心がすごく寂しくなった。
みんな嫌いだ。
……みんなのことなんか、大っ嫌いだ、と小学五年生の薺は思った。(……悔しくて、涙がまた、溢れてきた)
そんな薺の(悲しい)予想を裏付けるようにして、その男の子は「ふふ」と楽しそうな顔をしてにっこりと笑って、薺のことを正面から見つめた。
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