病弱な僕の人生計画!〜看病ハーレムってどうかな?〜

ばけねこさん

第1話 プロローグ


 どうやったら、元気になるんだろう?


 前世の記憶が蘇った僕は、ベットの上で考える。


 倦怠感、頭痛、喉の違和感、咳も少し。間接痛もあるかな?


 とりあえず、喉。

 たぶん、炎症を起こしている。

 

 炎症を起こしているところから菌が入る。だから、菌が喉に留まらないようにいた方がいい。


 僕は体を起こし……起こす気力がない。怠い。

 這って移動しよう。


 重い体を動かし、なんとか寝返りをうって、うつ伏せになる。


 ふう、と一息つく。寝返りすらキツイってやばいな。


「坊ちゃま!」


 メイドさんが駆け寄ってくる。


「どうなされました?何かあれば、この私にお申し付けください」


 あまり誰かに頼りたくないけど、仕方ないか。こんなに体が動かないと、自分で出来ることがかなり限られる。むしろ、何もできないかも……。


 要支援というか要介護レベル?


「さいどてーぶる……」


 やばい、声がかすれる。今にも死にそうな声なんですけど。ていうか、声出すのすらキツイ。もう喋りたくない。


「サイドテーブルですか?」


 嫌でも話さないと。状況が良くならない。今、無理をしてでも、やらないと。


「どっちにある……?」


「私がいる方にあります」


「そっちに、ぼくを はこんで……」


「承知しました」


 メイドさんはベットに上がって、お姫様抱っこで僕を抱えあげる。


 力が強いのか、僕が軽いのか、苦もなく運んでいるように思う。


「ここでよろしいですか?」


 ベットの端まで人一人分くらい。できれば、ギリギリを狙いたい。移動する体力が無いし、移動しなくていいくらい近くがいい。


「もうすこし……はしに」


「これ以上は落ちてしまいますよ」


「ねがえりも、むずかしいから……だいじょうぶ」


「それは大丈夫ではありませんよ。しっかり休んで体力を取り戻しましょう」


 うん。僕もそう思う。でも、そうじゃない。ベットの端ギリギリに移動したい。


「はしに……」


 死にそうな声でお願いする僕に、メイドさんは困った顔をしていた。


「承知しました」


 ベットの端まで腕一つ分くらいの所に運んでくれた。


「落ちないよう、お傍に控えています」


「ありがとう……」


「お役に立てて光栄です」


 もう、気分的にはかなり頑張った。でも、まだ目的は果たせていない。


「みずを……」


「承知しました」


 メイドさんは、僕の上半身を支えて、ティーポットのような水差しを口に寄せる。

……飲ませてもらうなら、移動する必要なかったな。


 注ぎ口を咥えると、少し傾けて元に戻してくれる。


「ありがとう……」


「もうよろしいのですか?」


「うん」


 口に入った水は少しだけ。水分補給にもならない。

 その少しを飲み込むのに、時間がかかる。

 

 僕の飲み込む力はかなり弱いみたいだ。

 それを知っていたメイドさんが、一度に口に入れる量を調節してくれた。ありがたい限りだ。


 とりあえず、喉は潤った。乾燥しないよう、こまめに水を飲まなくてはいけないが、次の水分補給までは暇だ。


 ベットに仰向けになってボケっとする。


 熱のせいなのか、あまり頭が冴えない。ちょっと前の記憶すら怪しい。


 このまま、瞑想をしてしまおう。


 前世では余りしていなかったが、一目いちもく置いていた。


 脳の疲れ、すなわち心の疲れをとる方法が瞑想だ。

 脳は常に働いている。考えるのはもちろん、体を動かすのも脳が命令している。

 考えるだけよりも、考えながら、体を動かして、会話をする方が、圧倒的に脳の負担が大きい。

 何か1つに絞った方が脳が休まる。そこで瞑想。


 目を閉じると、視覚情報を処理している脳が休める。

 体を動かさないことで、体に命令している脳を休める。

 極力考えないことで、考えている脳を休める。


 ただ、仕事に追われる現代人に、考えないことは難しい。仕事のことやらプライベートやら頭に過ぎる。

 この時、考えないよう気を張るとストレスが溜まる。

 あくまで、自然体。リラックス。頭に過ぎったことを適当に考えた方が、瞑想の効果が出る。


 仕事に追われていないが、いろいろ考えることがある僕は、頭に過ぎったことを適当に考える。


 抱っこされる前に見えた、メイドさんの顔。

 金髪碧眼で童顔。人形みたいに整った顔で、綺麗だった。

 名前はサラだったな。昨日、僕の専属メイドになった。

 声はあまり子供っぽくなかったけど、何歳なんだろう?


 そういえば、僕は何歳だろう?八歳……?うん、八歳だ。


 八歳って小学二年生ぐらいかな?前世では何してたっけ?


 うん?そういえば、僕の人格どうなっているんだ?前世の方?今世の方?

 混ざっている気がする。……いや、体に振り回されているだけで、前世の人格かな?


 忍耐力とか、脳が未発達な分、感情に振り回されている気がする。


 そろそろ、水飲もうかな。


「みず……」


「承知しました」


 水を飲ませてもらって、ベットに沈む。


 なんか、美女にお世話されるの癖になりそう。癖は癖でも性癖の方。

 なんてふざけた考えをしてたら、罪悪感がやってくる。


 看病して貰っているのに、こんなこと考えるなんて、浅ましいな……。


 まあ、いいか。考えるのは自由だ。

 開き直って、精神の平穏を保つのも重要だ。だから、気にしないことにした。


 そういえば、呼吸。アレ、疲労回復とかいろいろ効果あるんだよね。実感したことは無いけど……。

 

 やってみるか。


 まずは、大きく息を吸って限界まで肺と腹を膨らませる。


 すうぅ……。


 無理。力入らない。全然膨らまない。


 ちゃんと力はあるはずなんだけど……。


 記憶を遡ってみる。


 熱を出したのは昨日の夕方。剣の稽古の途中。疲労で力尽きてベットに沈んで、夜を過ぎ、朝になり、今は昼前かな?


 剣の稽古が出来るぐらいの筋力はある。じゃあ、疲労で力が入らないのかな?

 そもそも、熱を出すと力が入らないのかな?


 わからない。この話は置いておこう。


 呼吸を少し工夫しよう。

 息を吸うのに十秒。……長いかな?まあ、いいや。

 次に、息を十五秒止める。寝たきりだし、苦しくはないだろう。

 息を吐くのに十秒。

 

 これでやってみよう。


 まずは息を吸う。

 普通に吸ったら二秒以内に吸い終わる。ほぼ、息を止めるような状態で、ゆっくり肺と腹を膨らませる。


 1、2 、3、4……もう息が苦しい。というか、五秒で限界まで息を吸った。


 時間を短縮するか。

 息を吸うのに五秒。

 息を止めるのに、十秒。

 息を吐くのに五秒。


 仕切り直し。


 息を吸う。


 1、2、3、4、5。


 息を止める。


 1、2、3……。

 

「坊っちゃま?」


 メイドさんが顔を近づけたのがわかる。

 顔の近くに暖かいものがある感覚がする。

 

「息をしてない……そんな……」


「とめてるだけ……」


「驚かさないでください!心配するではありませんか!」


 怒られた。健康呼吸法をやっていただけなのに。


「はあ、生きててよかった……。うううう……うわああああああん!」


 僕の胸に顔を埋めて泣かれた。声を上げての大号泣。

 健康呼吸法をやっていただけなのにな……。


「どうした!」


 外にいた護衛が部屋に入ってきた。


 部屋の中にいた護衛が答える。


「坊ちゃんが息を止めていたようだ」


「それは……大丈夫なのか?」


 困惑した声が聞こえる。

 

 寝ている人に縋り付いて泣いている。パッと見、僕が死んだように見えるだろう。

 でも、部屋の中にいた護衛は落ち着いている。護衛対象が死んだとは思えないだろう。


「わざと息を止めていたらしい。不意に息が止まったわけではないようだ」


「そうか」


「一応、医者を呼んでくれ。水を飲む頻度が多い。何か異常があるかもしれない」


「わかった」


 熱が酷くならないようにしてたのに、医者を呼ばれた。

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