代筆屋カラウリの憂鬱
関川 二尋
プロローグ
世の中には行き場を失った手紙が存在している。
書いてはみたものの投函できなかった手紙。
投函したもののどこにも届かなかった手紙。
返信が書かれずそのまま忘れ去られた手紙。
返信不要で一方的に送り付けただけの手紙。
役目を果たせなかった手紙はいつまでも『郵界』を彷徨うことになる。
手紙というのは少なからず返信があって初めて成り立つものだからだ。
それはいわば浮遊霊みたいな存在、といえば分かるだろうか?
手紙にはそれを書いた人間の意志が怨念のように残留している。本人は忘れたとしても、便箋には、便箋に染み込んインクには、そういった意志が筆跡とともに確かに刻まれているのだ。
そういうわけで、世の中には行き場を失った手紙が存在している。
返信がないまま郵界をさまよい、最悪の場合はアヤカシや悪霊に転じてしまう。
そういう手紙に返信を書くのがオレ、『代筆屋』の仕事だ。
書かれた手紙のために返信を書く。
そうすることで手紙が抱えている怨念が消えてゆくのだ。
オレの名前はカラウリ。
小説家崩れの腕を買われて『代筆屋』にスカウトされた。
気づけばもうずいぶん長いことこの商売に携わっている。
ちなみに雇い主からの注文は一つだけ。
『嘘でもでっち上げでもいいから、とにかく返信を書け』
まぁ最初は楽勝だと思って引き受けたんだが、いざ始めてみると意外と難しい。
でも同時に想像力が書きたてられるのも事実だ。
人の手紙を盗み見する行為は背徳感満載で楽しいし。
だからまぁ、とにかく楽しんで仕事してる。
少なくとも今は。
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