第16話  キッズは喰い物に飢えている

 が1日の生活費の中で大事にしたのは、おやつ代だ。1日辺り千円をおやつ代に使った。安宿街であるP町は物価がく、お菓子も大量に買えた。俺は自分の買った菓子を「俺専用」と書いた大きな袋に入れて、路上にいるときも必ず側に置いた。俺はその菓子を誰にも分けずに「キッズの放課後」の時間に食べた。徳用袋に入ったバウムクーヘンやドーナツ、ウエハースなど甘い菓子が中心だ。子どもの頃、喰いたくても喰えなかった菓子を俺は今、喰っている。さすがに千円分もの菓子は量が多すぎるので、夜明け頃、指を喉に突っ込み嘔吐する。一種の摂食障害だが、Q界隈で心に病を持つものは少なくない。たいていのキッズは精神科クリニックにも行かず、病気と共存している。

 俺はお菓子とは別に他のキッズが喜ぶような食べ物として、俺のバイト先の鶏料理を千円から2千円分、店で購入した。四ツ辻や三叉路にキッズが集まって呑み喰いするとき、俺は店の鶏料理を喰わせた。女の子には生理が軽くなるという理由でレバーが好まれた。キッズ達は食べた分、小銭を俺に渡してくれた。たいていは赤字黒字のトントンで、儲けは出ない。店にカネを渡すとき、集めた小銭のままで支払いをした。店は釣銭の両替の手間が省けると喜んだ。

 キッズの集合場所が俺のバイト先の鶏料理店のときは、よく仲間に親子丼や鶏釜飯を買いに行くよう頼まれた。その鶏料理店には鶏ガラスープで仕立てた卵雑炊まである。しかしファイヤーバードガールへの人件費が高いため、丼1つでも例えばP町の丼よりはるかに高い。俺はP町の24時間開いている丼店を勧めたが、キッズ達は俺の働く店の食べ物を望んだ。夜11時を過ぎるとQ界隈の店はキッズの入店はもちろん、テイクアウトで買うことも許さない。俺は深夜の店で働くダット先パイを通して丼や鶏釜飯を買った。

 キッズ達は喰い物に飢えていた。働き場所によっては賄いも出ないので、コンビニの値引きされた弁当で夜飯を済ます奴も多い。腹が満ちるとキッズ達の遊びの時間が始まる。

 キッズのメンバーは入れ替わりが結構あり、ようやく見覚えたキッズが突然居なくなることもある。家とQ界隈を往復しているキッズも多いことがだんだんと分かって来た。

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