第99話 修学旅行 ⑵
修学旅行当日はあっという間に訪れた。
修学旅行のスケジュールは一日目の午前中に移動、午後が歴史資料館や歴史的な場所を巡る。二日目は丸一日、自由行動。三日目の午前中はお土産を買ったりする時間で、午後は帰るために移動するという予定になっている。
新幹線を利用しての移動で、席は出席番号順に座ることになった。
そうなっているはずだった……。
「そらぁ、どうしても窓側じゃないと具合悪くなるんだ代わってぇ〜」
新幹線ってそんなに酔うことあるのだろうかと思いつつ、舞のわがままのために席を交換することになった。
隣は遠藤さんだ。
遠藤さんと交代してもらえばいいのに舞の行動はよく分からない。
「滝沢どうしたの?」
「舞が窓側がいいから席変わってくれって」
私は遠藤さんの隣に腰を下ろした。勢いよく座ったから遠藤さんの肩に自分の肩が触れてしまう。
「着くまで時間長いし、なにかする?」
「なにかって何できるの?」
「滝沢ってアニメとか見る?」
「あんまりアニメは見ないけど、映画とかは見る」
「じゃあ、映画見よっか」
そう言って遠藤さんは有線イヤホンを取り出して片方を私の耳にはめた。そのまま、もう片方を遠藤さんの耳に付けるとお互いのイヤホンが取れないように頭を近づけることになった。
遠藤さんが流してくれたのは、戦国時代の話だった。なんか遠藤さんは恋愛系とかそういうのが好きそうなイメージがあったので意外だ。
「遠藤さんってこういうの見るんだね」
「滝沢に勉強教えてもらってから歴史的人物が出てくるこういうのも見るの好きになったんだ」
遠藤さんを横目で見ると楽しそうに笑っていた。
私はそれを見て、少しほっとして遠藤さんが付けてくれた動画を見る。前のホームルームの時のような顔はしていなさそうだった。
映画を見ていると勝手に私の手を握ってくる。
「遠藤さん何してるの?」
私は遠藤さんの意味のわからない行動が嫌で、手を振りほどいた。
「ごめん、変なことして」
いつもの彼女ならもっと食いついてきそうなのに、今日の遠藤さんは思ったよりも諦めが早かった。
動画を見ていると移動時間はあっという間で、修学旅行先に私たちは無事到着した。
午後は教科書で見たことのあるお城や博物館に飾られている歴史的価値の高いものを見て回るスケジュールとなっている。
「実際に見て回ると少し関心が高まりますな」
舞が調子よくそんなことを言っているが、本当にそう思っているか少し怪しいところがある。
「ほんとだね。滝沢が教えてくれた話もほんとなんだってわかるものもいっぱいある」
「それは私の話を信じてなかったってことなのかな?」
冗談ぽくそんなことを聞いてみると、舞と遠藤さんは目を合わせてぷっと吹き出して笑っていた。
二人が楽しそうなの幸せだな――。
その光景を見てそんな思いが溢れてしまう。
「舞ちゃんたちも真面目に回ってるね〜」
少し遠くから声が聞こえきて、声がする方向を見ると安藤さんたちがこっちに向かって来ていた。
「安藤さんたちも真面目に見てるね〜」
舞が同じトーンで返している。結局、安藤さんたちと合流して六人で回ることになった。
泉ちゃんは今日は遠藤さんにかなり興味を持っているのか遠藤さんの近くにいる。遠藤さんの腕に抱きつきながら一緒に歩いていた。
「私、一年生の頃からずっと陽菜ちゃんと話してみたかったんだ! 醸し出る雰囲気が美人すぎてびびってなかなか声掛けられなかったんだけど、三年生でこうやって仲良くなれて嬉しい!」
泉ちゃんは相変わらず近い距離で遠藤さんのことを見つめていた。
「泉ちゃんにそう思ってもらえて嬉しいな」
遠藤さんは心にも無いことをなぜあんなすらすらと言えるのだろう。遠藤さんと一緒にいる時間が長すぎたせいか、今の言葉が本当に思っていることでは無いことがすぐに分かってしまった。
「うれしい! 陽菜ちゃん一年生の頃から男子からも女子からもモテモテだもんね!」
「たしかに、一年の頃、週一で誰かしらには呼ばれて告白されてなかった? 二年生で頻度は減ったものの結構な人がお付き合い申し込んでたよね?」
泉ちゃんに乗っかり安藤さんも畳み掛ける。
二人の発言は本当のことなのだろう。なぜかその言葉に胸がチクリと痛む。
遠藤さんとずっと一緒に居たから忘れていたけど、遠藤さんはかなりモテる人だ。いつ、恋人ができて私との勉強会がなくなり、私と関わりがなくなってもおかしくなかったのだ。
そう思うと喉に針がつっかえたような息苦しさに襲われる。
「あはは、そうだったかな」
遠藤さんは適当に流しているが、否定しないあたり事実なのだろう。
「こらこら、二人とも陽菜さん困ってるからやめなよ」
山本さんが二人の勢いを止めるようにちょっと低いトーンで話していた。
「はーい、ごめんなさい」
全然謝罪の気持ちがこもっていない返事が返ってきて遠藤さんへの質問は終わった。
しかし、その後も泉ちゃんが遠藤さんから離れることはなく、午後の修学旅行は終わった。
ホテルに到着すると各々部屋の鍵が渡され、夜ご飯の時間まで部屋で過ごすこととなる。
「わぁ、ベットふかふか!」
舞がベットにダイブしていた。ベッドが三台横並びになっている。舞は場所も決めていないのに勝手に窓際のベットにダイブしていた。
「遠藤さんどっちがいい?」
「私、真ん中でいいよ。端の方好きでしょ?」
なんでバレているんだろう。遠藤さんに自分の考えが筒抜けなのが少し嫌だったので素直になれなかった。
「真ん中がいい」
「う、うん。わかった」
遠藤さんはそのまま端の方に荷物を置いていた。
「お風呂入りに行こー!」
舞は既にお風呂セットを用意していた。
「ご飯の前に入っちゃうのありだね」
遠藤さんも準備をするので私も急いで準備をしてお風呂に向かうことになった。
一番乗りだったのか人は全然いなかった。
「貸切だね!」
舞は勢いよく服を脱いでお風呂に入っていく。
私は遠藤さんに見つからないように急いで服を脱いで、タオルで隠してお風呂に向かった。
舞が体を洗っている。
そのちょっと遠くで体を流すことにした。
準備をしていると横に遠藤さんが来た。
遠藤さんは全然恥ずかしくないという感じで、裸のまま私の前に立つ。
「隣いい?」
他にも沢山空いているのになんでわざわざ隣にするのだろう。そしてなんでそんな堂々としているのだろう。まるで隠して恥ずかしがっている私が意識しているみたいで嫌になった。
そして、見てはいけないと分かっているのに遠藤さんから目が離せなかった。遠藤さんの体を見ると心臓がどくどくと頭に鳴り響く。
「滝沢のえっち。見すぎだよ」
そういって今更隠すような素振りを見せるので余計恥ずかしくなり、顔を見られないように遠藤さんにシャワーを当てた。
「滝沢ってそういういたずらみたいなことするんだ」
すごい驚いた様子だけど、少し楽しそうな遠藤さんがいる。なんか、私ばかりが余裕がなくてここにいるのが嫌になった。
遠藤さんの裸は綺麗だった。
スタイル、肌の色、形……。
あの人に欠点は無いのかと呆れてしまう。
露天風呂付きのお風呂だったので私たちは露天風呂を堪能することにした。その頃には他の生徒もちらほらお風呂に入ってくる。
「いやぁ〜露天風呂最高ですな」
「気持ちいいね、滝沢はどう?」
「気持ちいい、眠くなる」
「星空さん、ここで寝たら死んでしまいますよ」
「寝ないよ」
「ふふっ、舞とほんと仲良しだよね」
遠藤さんが私たちの会話を聞いて楽しそうだった。遠藤さんを見るとさっき見た裸のことを思い出して恥ずかしくなり目を逸らしてしまう。
遠藤さんみたいな体になりたい。
私の体は随分貧相だと思う。
胸も大きいわけではないし、ちゃんとご飯は食べているつもりだけど痩せ細っている部分もある。
次生まれるならボンキュッボンのきれいなお姉さんに生まれ変わりたいなんて思った。
「のぼせる前に上がる――」
私は露天風呂を出た。これ以上ここにいても余計なことを考えてしまう気がしたので離れることにした。
部屋に戻ると舞はご飯も食べていないのにベットに寝転んで今にも寝そうな勢いだった。
「ご飯まだなんだから寝ないんだよー」
遠藤さんはそう言いながら舞のベットに腰掛けている。私も真似して舞のベットに腰かけた。
「なになに、私、今から二人に襲われるの?」
「襲わないわ!」「そんなことしない!」
遠藤さんと声がハモって少し面白くなって笑ってしまう。
「ご飯まで時間あるし、話しよう。二人は好きな人とかいるのー?」
舞の急な質問に息が止まる。
「舞は居るの?」
遠藤さんが得意の質問返しをしていた。
「私、美海ちゃんと付き合ってるよ」
「え?」「ん?」
また、遠藤さんと声がハモる。
「え、美海ちゃんって滝沢が勉強教えてる、バスケ部の後輩の?」
「うん」
「いつから? なんで? どっちから告白したの?」
遠藤さんが珍しく怖い顔をして質問している。
「高総体終わったくらいからだよ。私が好きだって告白して付き合ってもらった」
えへへ、みたいなトーンでいつもの舞らしく答えている。
「舞は今幸せ?」
急にしんみりする質問をしてしまった。でも、聞かずにはいられなかった。
「うん! すごい幸せ。ツンデレな後輩ちゃんが可愛くて毎日愛でてますよ」
頭をぽりぽりしながら幸せそうな顔で語っている舞は本当に幸せそうだった。
「よかったね、応援してる」
私はこういう時なんて言うのが正解か分からなくて、冷たい感じになっているのかもしれないけど、今言える精一杯の言葉だった。
「それで、次は答えるのは二人の番だよ〜?」
舞が嬉しそうにニコニコしている。そのまま話すのは止まなかった。
「陽菜なんて、一、二年生モテまくってたんだから付き合ってる人の一人や二人いるんじゃないの?」
遠藤さんがなんて答えるのか気になり、無意識に息が止まってしまう。
「舞の期待してるような答えはないよ。一、二年の頃は自分の生活で精一杯だった。誰とも付き合ったことない」
遠藤さんのその回答になぜか安心し、息の仕方を思い出した。
「じゃあ、今は?」
「好きな人はいる……」
ちらりと私の方を見られたけど、その言葉に胸が急に苦しくなり、私は違う方向を見てしまう。
私はこの場にいたくないくらい苦しくなっていた。
遠藤さんに好きな人がいることは知らなかった。知りたくなかった……。
「告白しないの?」
「今はしない。片想いなのわかるし、今の関係壊したくない」
「へー」
聞いてた割に興味のなさそうな舞の興味は私に向く。
「星空は?」
私の気持ちがぐるぐると落ち着いていないのに舞は止まってくれない。
好きとか付き合うとか私にはよく分からなかった。
「よくわからない――」
「今まで好きになった人とか付き合ったことある人いないの?」
「いるわけない」
「じゃあ、星空はキスとかしたことないわけだー」
その言葉に胸がドキドキとする。
悪いことをした時にバレないかと不安になる時の感覚に似ている。
舞は何故かすごいニコニコとしている。
「こらこら、滝沢のことあんまりいじめないの」
遠藤さんがそう言って助けてくれた。
今だけは女神様に見えた。
「そうだね! そろそろご飯食べに行こう! あ、二人のことは信頼してるから話したけどそんないろいろな人に言わないでね! 美海から二人には言っていいって許可もらったから話した」
ピースサインでこちらをまっすぐ見てくる。舞とは一年生の頃からの付き合いだが、私が一線置いていたせいでこういった踏み込んだ話はなかなかできなかったと思う。だから、私のことを信頼して自分のことを話してくれたことが嬉しかった。
「舞……」
「ん?」
「話してくれてありがとう」
「そらぁ……なんで君はそんなにかわいいんだぁ」
舞は勢いよく私に抱きついていきた。そして私を見つめて少しだけ真面目な顔をしている。
「星空も好きな人出来た時教えてね?」
「……うん」
舞が話し終わると遠藤さんに腕を引かれた。ご飯にそんなに早く行きたいのだろうか。
そして、私たちはご飯会場に向かう。
「あ、行く前にトイレ行ってくる」
そう言って私は一旦その場を離れた。
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