第79話 ライバル
私はどうやら百獣の王に決闘を申し込んだようです。
勉強もスポーツもそれとなく努力すればなんでも出来て来たので、今回の勝負は努力すれば勝てると思ってました。
しかし、陽菜先輩は次元が違いすぎた。
あの人は元から秀才なのに努力の天才でもあった。
強い上に努力されたら勝ち目はない。
まさに頂点に君臨する百獣の王です。
「陽菜、気合い入ってんねー」
「後輩に負けてられないからね」
ちらりと陽菜先輩が私の方を見る。
私も負けずと努力している。
ただ、陽菜先輩の努力の量は私を遥かに
陽菜先輩をそんなふうに突き動かす星空先生はよっぽど愛されているのだと実感する。
入る隙なんて与えてくれないよね……。
それでも、当日までかなりの努力をした。当日の私のコンディションはかなり良かった。いつもより動きもいいし、シュートも入る。
舞先輩もいい動きをしている私にパスをくれる。
ただ、結果は残酷だ。
陽菜先輩との点数差は十五点くらい付いていた。
「陽菜の取る点数ってえぐいのにほとんど同じくらいな美海ちゃんすごいよ」
わしゃわしゃと試合後に舞先輩に頭を撫でられる。
「全然敵いませんでした」
「そんなことないよ。私的には三年間で一番本気な陽菜が見れて良かったなと思うよ。ありがとう美海ちゃん」
そう言って舞先輩がまた頭を撫でてきた。
「星空来てたけど、声かけなくていいの?」
「星空先生、私なんて眼中にないですから」
はぁ。と溜息をつきたくなる。
そんな私を舞先輩が抱きしめてきた。
「頑張ったね。えらいえらい」
「私のこと、小学生かなんかだと思ってます?」
「思ってないよ。すごいキラキラしててかっこよかった。美海ちゃんが相手の気を引いたから陽菜が輝けた部分もあるからね。縁の下の力持ちって訳だ」
「舞先輩、良いこと言ってるのに棒読みですよ」
陽菜先輩との力の差を見せつけられてショックが大きい。そして、私は約束通り陽菜先輩の約束を守らなければいけない……。
陽菜先輩は私になにを言ってくるのだろうか。もう、星空先生とは関わるなとか言われるだろうか。
約束は約束だから守らなければいけない。
暗い顔をしていたからか、珍しく舞先輩が真剣な顔で私を見てきた。
「星空じゃなくて私にすればいいじゃん」
は????
多分頭の中に疑問符が三十個くらい浮かんだ。
ぽかんとしてるとニコニコとした舞先輩に頭を撫でられる。
ほんとに何を考えているか全くわからない人だと思う。
「そういえば約束覚えてる?」
あっ……舞先輩が陽菜先輩に
約束守ったら舞先輩の言うことなんでも聞くとか言ったんだっけ……。
余計なことを言ってしまったことに後悔する。
「今度、一緒にお出かけしようよ」
は?
また訳の分からない事を言われる。
「約束だからねー」そう言って舞先輩はその場を離れてしまった。
私は疑問が多すぎて頭が痛くなるまで考えていると陽菜先輩に後ろから声をかけられた。
「ちょっと話いい?」
「はい……」
場所は人気の少ないところに移った。
「私が勝ったから美海ちゃんにお願いしてもいいよね?」
「はい……」
「じゃあ、滝沢と今まで通りに接して。あと、告白も自分のしたい時にしたいと思ったタイミングでしなよ」
「はい?」
「いや、そのままの意味だけど」
何を言っているんだろうこの人は。
自分によっぽど自信があるのか、それともなにか理由があるのか。
「それはなんで……ですか?」
「前も話したけど、滝沢、美海ちゃんに勉強教えるのすごい楽しいって頑張ってるんだよ。それを私に奪う権利は無いし、あなたの好きな気持ちも告白したいと思う気持ちも、もっと私がどうこうしていい権利じゃない。自分の道は自分で好きに選んで欲しいと思うかな」
陽菜先輩はニッコリと本音か嘘かわからないことを言って笑っていた。
「余裕ですね」
「余裕なんてあるわけないでしょ。滝沢みたいな人、誰もほっとくわけない。実際、美海ちゃんだってライバルだし」
私がライバル……?
陽菜先輩の足元にも及ばないのに……?
「わかったら、この勝負はおしまいだから。県大会でみっともないバスケしたら夏合宿きつくするように先生に頼んどくから」
「引退するからってそれはズルくないですか」
「生意気な後輩だなぁ。わかったらこの話はおしまい」
そう言って、陽菜先輩が行ってしまった。
陽菜先輩も星空先生もかなり不器用な人だなと少し笑ってしまった。
今まで通りでいいんだと思うと胸の中がぽかぽかする感じがした。
陽菜先輩のことがちょっと好きになった。
星空先生のことは大好き。
だから、二人には幸せになって欲しいなと思った。
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