第69話 《おまけ》スイッチ


「たきさわ、ごめん教科書忘れた見せて……」


 遠藤さんは小声で話しかけてくる。

 今は現代文の授業中でみんな眠そうにしている。


 大きくため息をつきたくなるが、静かでそんなことも出来ず音を立てないように遠藤さんと机をくっつける。



 喋ると先生に怒られそうなので、筆談で会話をすることにした。


『先々週も教科書忘れてたよね?』

『ごめんごめん、現代文いつも忘れちゃうんだよね』

『次は見せないからね』


 そう書いて遠藤さんの顔を見ると、私は怒っているのに遠藤さんは嬉しそうだった。


 この人、わざと忘れてるいのでは? と思わせる態度だ。



 遠藤さんの顔を改めて近くで見ると、とても綺麗で心臓が速く動く。


 肩と肩の距離が近い。


 はぁ……こんなことで授業に集中できなくなる自分を情けなく思う。



『授業暇だね』


 遠藤さんが私のあげたペンケースからシャーペンを出して、先端とは逆の方でつんつんしてくる。


『授業に集中して。遠藤さん現代文の点数いつも悪いでしょ』


 それを書いて見せると、うげっと言う顔していた。遠藤さんはふざけるのを諦めたのか授業に集中し始める。


 横の髪を耳にかけて教科書に集中している。



 遠藤さんはペーンケースをいつも大事そうに見つめている。そして、いつも学校に持ってくるハンカチは私の刺繍したハンカチだ。


 私のあげたものがそんなに大事に使われていると知る度に、胸がぎゅうっと締め付けられる。


 自分が遠藤さんを見すぎてしまっていると自覚し、私も授業に集中することにした。遠藤さんが集中し始めて、喜ばしいはずなのに何かつまらない。



 先生が黒板に文字を書くのを見計らって遠藤さんのほっぺを指でつんつんしてみる。



 そしたら、思いのほか遠藤さんの顔が赤くなるので、少しおかしくて私の頬が緩んでしまった。


 前もほっぺを触った時に赤くなったことがある。

 

『遠藤さんってほっぺ触るとすぐ赤くなるよね』

 

 そうメモを残して残りの時間は集中したが、遠藤さんはしばらくほっぺが赤かった気がした。


 どうやら、私は遠藤さんの赤面スイッチを見つけてしまったようだ。

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