高校3年生
第66話 高校3年生
桜がひらひら散る。
私は制服のネクタイを閉めてブレザーを羽織って何も言わず家を出る。
あんなに寒かったのが嘘かのように、街の人達はすっかり薄着になっている。
春は地味に騒がしい季節であまり好きでは無い。学生になる人、社会人になる人、生活の変わる人、様々な人達が街を行き交い、皆色々な表情をしている。
今日は始業式だ。
学校に近づくと同じ制服を来た男女が多くなる。
「そらぁー!」
遠くから舞が手をぶんぶん振りながら叫んでいるのが見える。三年生になっても相変わらず元気で、私といつもどおり挨拶をしてくれる彼女にほっとする。
「やっほー! 久しぶり! 春休み中元気だった?」
「うん、元気」
「星空が元気ないんじゃないか心配だったよー」
舞は周りの目も気にせず、私にぎゅーぎゅーと抱きついてくる。
「休み明けそうそう鬱陶しいよ」
「ひどぃぃ。二年の仲なのに。今年もクラス一緒だったら私達、運命だね」
そんなことを言って、舞はうひゃうひゃ笑っていた。
今日はクラス発表の日。
どんなクラスになってもやることは変わらない。一年生も二年生もそう思っていた。
しかし、今年は少し違う。
遠藤さんと同じクラスになれたら楽しい学校生活になるのかな……なんて少しだけ思っている馬鹿な自分がいる。
「星空? ぼーっとし過ぎじゃない?」
舞に呼ばれて我に返る。
「クラス一緒だといいね」
舞のテンションにできるだけ合わせるようにした。
私たちは二年間通い続けた学校の中を歩いて、新しい教室に向かう準備をする。昇降口前にはクラスが張り出されていた。
「私、五組の方から星空と私の名前ないか探してくるから星空は一組から探してきて!」
「わかった——」
舞はバタバタと私と反対側に駆けていく。
私は一組から順に名前を見る。
出席番号は五十音順なので舞も私も比較的早い番号になる。
一組に私たちの名前はなかった。
私は自分と舞の名前以外にも探している名前がある。
二組を上から順に見る。
〈
遠藤さんの名前が目に入った。
遠藤さんは二組らしい。
その下に目をやると舞の名前があった。
遠藤さんと舞が同じクラスのようだ。
そのことに胸がチクリと痛くなった気がした。
私は目をそのまま下に進ませた。
心臓がトクトクとうるさく、何かを訴えかけてくる。
急に後ろから抱きしめられ、心臓がより早く音を鳴らす。
「滝沢、クラス一緒だね」
遠藤さんがこれ以上無いくらい嬉しそうな笑顔で私を見つめてくる。
「遠藤さんここ学校。離れて」
私は突き飛ばす勢いで遠藤さんを離した。
もう一度、クラス表を見ると私の名前があった。
〈
遠藤さんと同じクラスだ。
だからって、何か変わるわけじゃない。
ただ、何故か心臓がとくとくと鳴り止まない。
これからはクラスメイトなので学校で話していても不自然じゃないだろうか。遠藤さんはクラスの中では誰と過ごすのだろうか。どんな遠藤さんが見れるのだろうか。
そんなあほみたいなことに心躍る自分がいる。
「そらぁ、三組までは私の名前無かったぁ」
「舞、今年もクラス一緒だよ」
そういうと舞が目を輝かせて、先程会った時と同じように抱きついてきた。
「わたしゃ幸せものだよぉ」
そういってぎゅーっと離してくれないと、遠藤さんのほっぺがぷくーっと少し膨らむのが見えた。
遠藤さんってどんな顔をしていてもかわいいな。相変わらずの美貌に呆れてしまう。
「舞、私とも一緒だからね」
「え!? 陽菜も一緒なの! めっちゃ楽しいじゃん!」
そんな会話をして、三人で教室に向かう時に舞が鋭い質問をしてきた。
「そういえばさ、星空と陽菜ってなんで仲良いんだっけ?」
二年生までお互い学校で関わらないという約束だったので、舞がそう思うのも不思議では無い。なんて答えるのが無難だろうと考えている間に、遠藤さんがすんなりと答えてしまう。
「勉強教えてもらってた」
遠藤さんはこういう時、堂々としててすごいと思う。
「だから陽菜二年生の時、成績ぐんぐん伸びたのか! 星空、凄いね!」
「遠藤さんが真面目に勉強しただけでしょ」
舞がそこまでこの話に食いついてこなくて良かったと思っている間に教室に着いた。
教室内のクラスの座席表を見ると衝撃的な事実を知る。
遠藤さんが隣の席だ……
遠藤さんの隣が私、私の斜め後ろが舞、つまり遠藤さんの後ろが舞の席ということになる。
「座席まで最高だね。三年生スタートから幸先いい!」
舞がほんとに嬉しそうな顔をして、そんなことを言っている。
席に着くと隣からやたら視線を感じる。
ちらりと見ると、なんかニコニコじゃなくてニヤニヤしてる遠藤さんが居る。
「なに」
「ううん。滝沢の横顔を授業中も見れるの幸せだなぁって思った」
「ばかじゃないの。授業に集中して」
「いいなぁ! 私も混ぜてよ!」
もう会話がめちゃくちゃだ。遠藤さんも好き放題話しているが、それ以上に好き放題に話す舞……。
楽しいかもしれないけどかなり疲れそうだ。
でも、隣を見たらそんなのどうでも良くなった。
舞も遠藤さんも笑顔で楽しそうだ。
その二人を見ていたら、楽しそうで私もつられて笑ってしまった。
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