第7話 有能なベス(ヒョロ男)
◇
——そして現在に繋がり、イリスはベスに謝罪していた。
「あのぅ……知らなかったとはいえ、すみませんでした!」
深々と頭を下げて謝った。
「自分も立場上、あんな言い方で部屋から出るな、としか言えなくて申し訳なかったっス」
あの腰巾着のヒョロ男とは思えないほど、人懐っこくて癒し系の人物だった。
なんて良い人なんだ。喋り方の癖は強いけど。
「もっとしっかり鍵とか掛けられなかったの〜?」
エンジュが割って入る。
「僕達も、結構倒して侵入したとはいえ、多少はイリスちゃん達の方へ流れちゃったからね。ほんと無事で良かったよ」
「……一番頑丈な鍵を掛けといたはずなんスが、すみません」
そんな鍵を壊してすみませんっス。
壊したのは私じゃないけど……。
話し方が移ったイリスが、心の中で弁解した。
協力者として潜入から始まり、内部の情報収集、カリムとの連絡、イリス達を安全な場所に誘導。
さらには、誘拐犯達には睡眠薬を飲ませたりと、裏で暗躍していたベスはかなり有能だった。
「そう責めるな。一番予定を狂わせたのは、ユーリなんだから」
ベスを擁護するように長が窘める。
「ユーリ、一族の約束事は覚えているか?」
ユーリは長の質問に目を逸らした。
もちろん覚えているからだ。
「なぜ、約束を破った?」
「申し訳ございません。妹の無事がわかり我慢する必要がないとわかったら、つい……」
つい力を試したくなったんだよね……戦ってる時、生き生きしてたもん。
長は深くため息を吐くと、ユーリの頭を軽く撫で、それ以上は何も言わなかった。
約束事が気になったイリスは、隣にいたエンジュに小声で聞いてみた。
「約束ってなんですか?」
「こども達には自分の身に危険が生じない限り、人間相手に力を使わないように、と言いきかせているんだよ」
エンジュは一族の話でも嫌な顔をせず、笑顔で答える。
「今回も部屋の中で危険がなかったなら、待機するのがベストだったんだけどね〜。もちろん状況にもよるけど」
そんな決まりがあるとは知らず、ますますベスのことが気の毒に思えた。
危害がなければ、ユーリが大人しくしている前提で動いていたのだ。
ちょうどミリザの店が見えてきたこともあり、続きは部屋の中で話すことになった。
お店の前には、ミリザが立っていた。
「ユーリ! イリスさん! 無事で良かったわ」
心底安堵したように二人を抱きしめた。
とても嬉しい……嬉しいのだが……。
謎の視線がイリス達に刺さっていた。妬み嫉みの類を含んだ視線だ。
「姉さん、早く中に入ろう」
ずっと一緒にいたのに一言も話さなかったため、すっかり忘れるところだった。
後から、モラ男を気絶させたのはカリムだと知った。その時の驚きは、言葉では言い表せなかった。
そして、今まで無言だったカリムが複雑そうな表情でイリスを見ていた。
「カリムはシスコンだから気にしなくていいよ」
エンジュが追い抜きざまに、こそっと耳打ちする。ウインクを添えて。
ユーリは迎えに来ていた両親、リリと一緒に帰って行った。
部屋に入ると席が決まっているかのように、それぞれが席に着く。
イリスがどこに座るべきか悩んでいると、少し遅れて来たベスが手招きしてくれた。一緒にソファーに腰をかける。
ちらっと横顔を見ると、ベスの顔に違和感があった。
「あれ? そばかすが……ある」
「そうなんス。こっちが本当の顔なんスよ。潜入の時は隠してたんで、やっと顔をごしごし洗えてスッキリしたっス」
潜入の間、いろいろ大変だったんだろうな。
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