第13話 謎の老人①
——数日後。
準備が整うと、レイの他にエンジュも含め三人で神殿へ向かうことになった。
「カリムも一緒に来れば良かったのにね〜。ほんとシスコンなんだから」
言うまでもなく、カリムは姉ミリザのもとへ帰って行った……それは、もう光の如き速さだったとか。
来た時とは別の方角へ森を抜け、乗合馬車がある町へ進んでいた。
「そう言うな……村にカリムが残ってくれた方が安心だろう。町に着いたら、とりあえず泊まるところを探すか」
「そうね〜半端な時間に移動すると危ないし、情報収集もしたいしね」
「私も情報収集、頑張るね!」
「「…………」」
やる気に満ちたイリスを横目に、レイとエンジュは視線を交わすと無言のまま頷いた。
「イリスちゃんは、宿で待ってていいよ〜。僕達でいろいろお話聞いてくるからさ」
「なんで?」
「年齢的にもお酒とか飲めないでしょ? ……あっ! ほらっ! そろそろ町が見えてきたよ」
絶妙なタイミングで、目的地が見えてきたので話を逸らす。
いかがわしいお店や汚いやり方でも情報を得たいレイとエンジュは、やんわりとイリスの参加を阻止した。
「お腹も空いたし何か食べよっか〜」
町に入ると大勢の人で賑わっていた。
イリスは活気に満ちた町を見つめながら、呆気に取られていた。
ぼーっとしていたら人の波に飲まれて迷子になりそう……。
「イリスちゃーん! こっちこっち〜」
エンジュが手招きしている方へ人を掻き分けて到着する。
二人の背が高くて良かった……そうじゃなければ、早々にはぐれてたかも。
大衆食堂で注文した食事がくるまでの間、周囲の会話に耳をそばだてる。
昼時は過ぎているが、それなりに客は入っており其処彼処から話が聞こえた。
「周りの人が、何を話してるか聞こえるんですか?」
「意識すれば、ほとんどの人の声は聞こえるよ。こういう時は便利なんだよね〜」
暫くすると、目を閉じていたレイも口を開く。
「この中にはそれらしい情報をもった人はいなさそうだな。とりあえず食事を済ませたら店を出よう」
見計らったように、店員の女性が食事を机に置いていく。
「お待たせしました」
女性がニコッと微笑むと、イリスに話しかける。
「この町には来たばかりですか?」
「はい……なんでわかるんですか?」
「女性一人と男性二人の旅行客は珍しいので、最近来た方なのかな、と思ったんです。何日くらい滞在される予定なんですか?」
「どうしてそんなこと聞くのかな?僕達に興味津々〜?」
笑顔を貼り付けたまま、警戒したエンジュが話に割って入る。
女性は、やましい事がないのか全く動じる様子はない。
「実は……うち……宿屋も兼ねてるんです! まだ泊まる場所が決まってなければ、どうですか?」
営業だった。
すごい目がキラキラ……いや、ギラギラしている。これぞ商人魂。
女性とは、相反して三人は脱力した。
「あ……あぁ……じゃあお願いしようかな」
「ありがとうごさいまーす! お父さん! 宿泊三名様入りまーす!」
厨房にいる父親らしき人物に報告しながら、元気良く戻って行った。
「とりあえず、泊まる場所が決まって良かったですね。怪しい人ではなさそうですし」
食事が終わると、二階の宿泊エリアに案内してもらい荷物を置きに移動した。
レイはベッドや机、カーテン、装飾品、額の裏側などを確認する。
「何してるの?」
「不審物がないかチェックしている。イリスの部屋はエンジュが今確認してる」
イリスはそんな事を気にしたことがなかった。
世の中には悪い人がいるとわかっていても、実害がなければどこか他人事な気がしていた。
こういった宿も、不特定多数の人間が利用するのだから確認しなければいけなかったのだ。
「イリスちゃんの方も何もなかったよ〜。安心してね」
レイも確認が終わり、軽く頷く。
「これからの予定を確認しよう。まず、俺達はこれから町に出て話を聞いてくる。帰りが遅くなるかもしれないが、必ず俺かエンジュどちらかは先に帰るようにする。イリスは宿で待っててくれ」
「わかった……でも、ちょっとだけ買い物とか行ってきていい?」
「あまり出歩かないでほしい……が、必要な物もあるだろうし、行くなら気をつけて行くこと」
実はここに来る前、イリスには気になる飲み物があった。住んでいた村にはなかった珍しい飲み物でどうしても飲んでみたかった。
他にも携帯食と、石を入れるケースを買いたかった。
鞄にそのまま入れていたが、さすがに失くしてはいけない石が多すぎる。土の精霊の石まで増えてしまった。
捨てに行く旅なのに、増えてどうする……とイリスは思った。
レイとエンジュが出かけるのを見送ると、イリスも外出する準備をする。
石も持って行った方がいいよね。
持ち歩くのも置いておくのも、どちらにしても不安が残る石である。
鍵を閉めたことを確認して、階段を下りる。
食堂で働いている女性にお辞儀をすると、手を振ってくれた。
お店の目星はついていたので、歩いてすぐの出店へ向かう。
お店の前には数人並んでいる。
並んでいる間のワクワク感も嫌いじゃないイリスは、どのメニューにしようか悩んでいた。
いよいよイリスの番になり注文し、念願の飲み物を手に入れた。
「あ〜これが新感覚で話題のモチモチミルクティーか! 美味しい」
甘くてもちもちの食感に、控えめな甘さのミルクティーが飲みやすい。
幸せに浸っていると、不意に声をかけられた。
「お嬢さん、石をお忘れじゃないかの?」
振り返ると、杖を片手に外套を羽織った年配の男性がいた。フードに覆われていて顔は見えないが、口元の髭や腰の曲がり方からして高齢の男性だと思われる。
石は鞄に入っているはず……。
不審に思いながらも、鞄の中をガサガサと漁る。
「……あれ?」
なぜか入っていなかった。
「ありがとうございます」
「ちょうどお嬢さんの後ろに並んでおったから気付いたんじゃよ。ワシもモチモチミルクティー大好きなんじゃ」
他愛無い話をしながらも、老人の目線は石に向けられていた。
「それにしても、随分と変わった石を持っておるのう……」
「おじいさん、この石を知ってるんですか?」
少し警戒しながら、半歩後ずさる。
「そんなに警戒しなくて大丈夫じゃよ。仕事柄、ちと詳しいだけで奪おうとか思っとらんし、奪うつもりじゃったら、そのままとんずらしとったわい」
確かに! と、妙に納得したイリスは元の距離に戻る。
「しかも、他の石とも共鳴して、本来の力とは別の能力も発揮してそうじゃの」
「他の石があることも、わかるんですか!?」
このおじいさん、何者?
「……お嬢さんは、少々素直すぎるの。ワシはいいジジイじゃから問題ないが、心配になるわい」
ポリポリと頭を掻きながら、少々呆れたように、それでいて優しい眼差しでイリスを見る。
老人は何処かから自分に向けられる視線に気づき、顔を上げる。
「お嬢さんを心配している者もいるようじゃし、ワシはここで失礼するわい」
何を言っているのかわからず、老人が見ていた方向に顔を向ける。
「あっ! あの人は、今一緒に旅して……」
説明しようと振り返ると、すでにそこに老人の姿はなかった。
もう少し、お話聞きたかったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます