第3話 もう一つの魔石
二人が戻るまでの間、リリの持っているどんぐりでゲームをすることになった。
リリがポシェットを逆さまにすると、勢いよくどんぐりが器に叩きつけられる音がした。
小さなポシェットから大量のどんぐりが出てくるので、マジックみたい……と、どうでもいい感動を覚えた。
「このゲームも、ユーリお姉ちゃんが教えてくれたんだよ」
「お姉さん早く見つかるといいね」
「うん! お姉ちゃんすっごく強いんだ……だから、きっと大丈夫なの」
自分のことのように嬉しそうに話すリリを見て、さらにお姉さんの事を聞いてみることにした。
「どのくらい強いの?」
子供同士の喧嘩では勝っているとか、そんな微笑ましい感じの話を期待していたのだが、返答は思いもよらぬものだった。
「このどんぐりをね、握り潰したり……あとね、この前は木を倒してたよ、素手で。すごいでしょ!」
目をキラキラさせながら、とんでもない話をするリリに、イリスは驚きを隠せなかった。
お姉さんは、ゴリラか何かですか?
とは言えず困惑していると、部屋の扉がガチャッと音を立てて開いた。
「ただいま! お留守番ありがとう」
帰ってきたミリザの後にカリムも続く。
「ただいま」
それだけ言うと、カリムは別の部屋へ静かに消えて行った。
「シャイな弟でごめんなさいね。女の子がいるとすぐにどこか行っちゃうんだから」
ブツブツと小言をいう姿は弟想いの姉という感じだ。
仕切り直すようにイリス達の向かいに座る。
「帰って来た時、驚いたようなを顔していたけれど何の話をしていたの?」
「リリちゃんのお姉さんが強いっていう話を聞いていて……木も倒しちゃう? みたいな」
それを聞いたミリザは動揺したように目を泳がせたが、すぐに表情を戻す。
「さ、さすがに、それはちょっと大袈裟なんじゃないかしら?」
「嘘じゃないもん! お姉ちゃん、木の次は大きい岩だって言ってたもん」
人ひとりくらいなら、ヤっちゃえそうな気がする。
ミリザは大きく息を吐くと、諦めたように肩を落とした。
そんな二人のやり取りを見ていたイリスは、これ以上は話を聞いてはいけないような気がした。
「あのー……リリちゃんはこの後どうなるんですか?」
「とりあえず、ご両親に連絡がとれたから明日まではうちで預かることになったわ。ユーリのことも大丈夫だから大人に任せてね」
リリが素直に喜ぶ。
「ミリーおばさんちにお泊まりなんて嬉しいな!」
「ミリーおばさん!?」
「まだ、おばさんなんて歳じゃないんだけれど……ね! リリちゃんのママとはお友達で、お仕事とプライベート両方でお付き合いがあるの」
ね! の圧がすごかった。ミリザに年齢の話をしてはいけない。
何歳か気になったが、イリスは聞くのをやめた。
「イリスさんのことも話したら、お礼を言ってたわ」
「お礼なんてそんな……」
あまり役に立てていないので、きまりが悪い。
「そんな顔をしないで。あなたと一緒にいたから、この子は無事だったのかもしれないわ」
「それって、どういう……?」
ミリザの視線の先にはイリスの鞄があった。
「この鞄が何か?」
何の変哲もない普通の鞄だ。
武器になるわけでも、魔力が込められているわけでもない。
「その鞄から微かに魔力を感じるのよね。良くいえば守護するような……」
言い淀むミリザの物言いが気になり、思わず質問する。
「悪くいうと?」
「手を出したら返り討ちにするぞ、みたいな」
随分と血の気の多い守護だ。
それが本当なら仮に誘拐犯がいたとして、迂闊に手を出せなかったのかもしれない。
「無理にとは言わないけれど、職業柄気になってしまって……見せてもらってもいい?」
「それは構わないんですが、全く心当たりがなくて……」
「おそらく魔石の類だと思うわ。何か石とか持ってないかしら?」
石と言われて、ハッと閃く。
鞄の中から急いで取り出す。
「これのことですかね?」
呪いの石オパール。これに違いない!
何か情報が得られるかもしれないと、わくわくしながらミリザの言葉を待つ。
「うーん……これじゃないわねぇ」
違った。
他に石を持っている記憶はなかったが、念のため鞄の中を探っていく。
すると底の方で硬い物にぶつかった。
「なんだろう? これ」
「それよ! それぇーー!」
興奮気味にミリザが発狂。魔石オタクが発動した。
リリが若干引いている。
「まあ、なんて綺麗な魔石なのかしら。この色になるまで相当な力を込めたはずよ。手に取ると凄い力を感じるもの」
ミリザに渡した石は、赤いダイヤのような菱形で光にかざしてもやや薄暗く見える。
ミリザ曰く、魔力を込める前の石は魔鉱石と呼ばれ暗色の物が多い。
その石に魔力を注ぐ為、色が変わった後も黒く霞んだようになるのだという。
イリスの持っていた魔石は赤い色だったが、魔力を込める人によって、その色は変わるらしい。
「イリスさんを心配して、誰かが入れてくれたのね」
笑顔でそれだけ言うと大切な物を扱うように、そっとイリスに返す。
「もしかしたら、母ですかね」
アイネが鞄に入れたかどうかよりも、高価な魔石をどこで入手したのか……その点が気になった。
「優しいお母様ね」
なぜだろう……全くしっくりこない。
苦虫を噛んだような複雑な表情をしたイリスに、ミリザはくすっと笑う。
「この子を寝かせた後、もう少しお話できるかしら?」
隣にいたリリを見ると、うつらうつらと舟を漕いでいる。
夜も更けて、子供は眠る時間だ。
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